chapter:『いっぴき』と『いっぴき』 受付係の加奈子は、固唾を飲んで、その様子を見守っている。 猫の名前は、『リン』と言うらしい。 かわいい名前なのに、暴れまくるこの猫には、なるほど腹の部分に痛々しい傷が見え隠れしていた。 猫は、人間の乗り物の、『自転車』っていうやつにでも当てられたのだろうか? すり傷がある場所は、打ち身のように青くなっている。 致命傷には至らないとはいえ、とても痛そうだ。 幸が手を伸ばすも、猫はスルリと抜け出して、ベッドから戸棚へとジャンプした。 その度に戸棚が揺れて、中にあるいくつもの薬が入ったビンが、ガシャンと大きな音を立てて、倒れていく。 ビンはいくつかは割れたのだろう。 棚に設置してある開き戸からは得体の知らない液体が流れていた。 液体の薬が入ったビンの割れる音を聞いた猫は、さらに敏感になり、神経を逆なでする。 よって、惨劇はさらに悪化するばかりだ。 ああっ、もう!! 大の大人が三人もいながら何やってんだよ。 見ていられなくなったオレは、猫がちょうどベッドへと着地した頃合いを見計らい、ベッドを支えている金具を利用して、ひょい、ひょいっと猫の前に立った。 『お前、何だ!?』 颯爽(さっそう)と姿をあらわしたオレを見た猫は、新たな敵がやって来たと、敵意をむき出しにして威嚇する。 もちろん、オレたちが話す言葉は、人間からしたら、ただの、『ニャア』っていう声にしか聞こえないんだけどな。 |