chapter:蘇る苦痛と恐怖 この世界からいなくなった直前の――父さんと母さんの姿を思い出し、すっかり恐怖に包まれてしまう。 そうしたら、身体を包んでいた大きな布が取り除かれ、代わりに、あたたかな身体が密着するようにしてオレを包んだ。 何事かと思って目を開ければ、オレをしっかりと抱きしめる幸の姿があった。 顔は間近にあって、眉根を寄せている。 歪んだ幸の顔は、大きな唇を固く結ばれている。 ……コツン。 目を閉ざし、自分の額とオレの額をくっつけた。 まるで、幸もオレと同じような体験をしているように見える。 その瞬間、オレの心臓がドクンとひとつ、大きく鼓動した。 オレは、ひとりじゃないって、そう思えたんだ。 だから、オレは閉ざした口をまた開けて、言葉を紡いでいく……。 「父さんが背中を向けたほんの一瞬だった。神楽が……本性を現しやがったんだ。 神楽の鋭い爪が父さんの喉元を掻(か)き切って、その後、母さんも……。 そうやって、ふたりは息を引き取ったんだ。 オレは神楽に両足を傷つけられて、動けなくなって……。 オレもきっと殺されるんだって、そう思った。 だけど、神楽の真意はそうじゃなかった。次期妖狐族の王となるそのオレの力を奪い、妻に迎えることこそが、神楽の狙いだったんだ……。 それで、神楽から力を奪われないよう逃げていたところを、幸に拾われた……」 オレ、何も……できなかった。 目の前で、父さんと母さんが少しずつ息絶えていく姿を見守ることしかできなかった。 |