chapter:漆黒の刃が獲物を狙う時を待つ―side:神楽 「きゃーっ、神楽(かぐら)様ーー!!」 「今日も素敵!!」 「こっち向いて〜」 四方八方からの黄色い歓声は俺という存在を分からせてくれるだけのものに過ぎない。 俺が興味を惹くのは、同族の古都(こと)だけだ。 カメラという被写体が俺の美しい姿を映す中、俺の思考は別の方へ向いていた。 「神楽くんいいよー。もっと上を肌蹴させてくれないか?」 目の前にいる、『それ』はそう言うと、本来従うはずのない俺は幾つも連なっている胸にあるボタンをひとつずつ外していく。 冷たい風が身体に触れて気持ちがいい。 「カッコいいっ!!」 ひとつボタンを外すたび、殺伐とした真っ白い部屋に部外者の黄色い歓声が響き渡る。 それに負けじと、カメラの機械的なシャッターを切る音がする。 九尾の妖狐としての俺は今、人型になり、『神楽』として人間社会に入り混じり、モデルをしていた。 人間の言いなりなんてまっぴらごめんだし、俺に指図する奴を今すぐ叩き殺したくはなる。 だが、ここで本性を現せば、今までの苦労は水の泡になる。 すべては古都をいただくためだ。 もう少し我慢せねばならない。 古都を手に入れるまでの辛抱だ。 ――ああ、早く古都を俺の前に跪(ひざまず)かせたい。 古都の両親を殺した時の顔はなかったな……。 大きな目いっぱいに涙を浮かべ、きゅっと引き結ばれる小さな桃色をした唇。 |