chapter:おちこぼれ妖狐。 それは、妖狐族のしきたりというものがあるからだ。 妖狐族はもともと人里離れた山奥で人目に付かないよう、ひっそり暮らしているのではあるが、成人するとそれぞれの運命の花嫁や花婿を探すため、下界に降り立つのだ。 『運命の花嫁、花婿』というのは言うまでもない。しかし、人間とは違い、妖狐の伴侶のことだ。妖狐族の伴侶はたったのひとりしかいない。 愛を交わし、永遠を誓えば、この世を生きる限りけっして離れることはできない。 魂の片割れ。唯一無二の存在ただひとり。 ではどうやって伴侶を探すのかというと、これはまたとてもシンプルだ。 妖狐族の伴侶にはそれぞれ個別の、独特な魂の匂いがあるのだ。その香りを頼りに嗅ぎ分ければ、なんら問題なく探せるらしい。 曖昧な言葉なのは、今まさに彼は伴侶捜しの真っ最中だからだ。なんでも魂の香りは伴侶にしか嗅ぎ分けることができないらしく、独特の香りを放つのだと、真尋の祖母、宮内(くない)が言っていた。 けれど今、真尋はそれどころではない。生きるか死ぬかの真っ直中にいる。 ぐるぐるぐるる。 また、真尋の腹が鳴る。 「腹、減ったな〜」 人間界に来てからまだ数時間しか経っていないというのに、真尋の腹はすでに限界に達している。 ここへ来て厄介なのは妖狐の腹がブラックホール並みということだ。人間の一日に摂取する食事の量は妖狐の一食分に相当する。つまりは真尋は今日、人間で言うところの三日間、飯を食っていないということになるのだった。 真尋は自分の腹を擦りながら、なんとか今の状況から逃れられることはないかと辺りを見回す。 けれどここは裏路地で、民家もない。当然食い物が落ちているわけもない。 それでもなんとか足を動かし、ふらつきながらもおぼつかない足取りで歩いていると、何やら美味そうな香りが鼻についた。 |