chapter:おちこぼれ妖狐。 腰まである艶やかな長い黒髪とは相対して陶器のような白い肌がとても印象的だ。 異国の服だろうか、何十にも重なった薄手の衣をふんわりと身に纏い、縁側の前に立っていた。 そこで真尋がおかしいと思ったのは、男の他に人の気配がなかったということだ。 真尋が首をひねり考えている間にも、男は突如として姿を現した下人の女に命じた。 「戸棚の中にたしか饅頭が入っているだろう? それを持ってきてくれ」 「はい」 男が命じるままに、女は軽く頭を下げるとすぐにその場を去った。 まさか、女は盗人が押し入ったと誰か助けを呼びに行くつもりではないだろうか。 真尋は内心動揺しながら人間にナイフを突きつけたままでいると、間もなくしてつい先ほどこの場を去った女が主人の言いつけ通り、何やら大きめの器を両手に持ち、目の前に立っていた。 真尋と女の目が合う。 しかし女は怯える表情を浮かべることなく、まるで見知った客がこの家にやって来たかのように真尋に会釈ひとつすると、落ち着いた様子で男の膝元に器を置いた。 真尋が主人に突きつけた刃を気にも留めず、女は平静な態度そのままだ。 果たして女は盲目なのであろうか。しかしそういった様子は見えない。 そして男の方も女と同様だった。 真尋が男の首筋に突きつけているのは紛れもなく刃物である。――にも関わらず、男は首筋にある鈍い光を放つそれがあたかもないことのように器を拾い上げ、掲げた。 「これで少しは落ち着くか?」 持ち上げられた器は月光に照らされたおかげで中にあるものが何なのかはすぐにわかった。 それは今日の満ちた月のように真白で丸い、饅頭だった。 饅頭はいったいどれくらいあるだろうか。真尋はひ〜、ふ〜、み〜……と心の中で数えても数え切れない。器に山盛りだ。 別段刃物の存在を気にすることもない二人の様子であるのに、あまりにもこちらの要望をあっさりと呑んでいる。 まさか毒が入っているのではないか。真尋は用心のため鼻を近づけ、妖狐族独特の利きの良い鼻を使って毒の匂いをたしかめてみる。 |