chapter:それでも大好きなあの人。 だけど、今はすごく辛い。 その優しさが、苦しい。 胸が、痛いよ。 思わぬ先輩の登場で一度は止まった涙が、また目からあふれ出した。 「見え透いた嘘をつくなっ。お前もその子を狙っていたクチだろ?」 そうだよ。 嘘なんてつかなくて良い。 ぼくは大好きな先輩に不快な思いをさせちゃったから、罰を受けているだけ。 だから、先輩はぼくを助ける必要もないんだ。 「いやっ、離してっ!!」 だからぼくは、今度は先輩の腕から逃れるため、身を捩る。 「翔夢(つばさ)くん」 「ん、ぅうっ!?」 突然、名前を呼ばれて顔を上げれば、ぼくの口が塞がれた。 どうして? なんでぼくは今、先輩とキスしてるの? 息苦しくなって、ほんの少し口を開くと、そこから滑った何かが侵入してきた。 なに、これ!? 滑った何かは上顎から歯列をなぞり、下顎へと移動する。 ぼくの口内を我が物顔で蹂躙するのは、先輩の舌だ。 「んっ、んぅう……」 逃げようと舌を動かせば、絡め取られて口づけがいっそう深くなった。 なに、これ。 背中がゾクゾクする。 「ん、ふぁ……」 ガクンッ。 先輩の口づけに感じすぎたぼくは、とうとう腰が砕け、膝が折れた。 「お利口さん。もう逃げないね」 抗う力を無くしたぼくは、先輩に横抱きにされ、そうして地面に座って大きな口を開けている大学生から遠ざかった。 |