追って追われて恋模様。
第四話





chapter:追って追われて恋模様。







「翔夢(つばさ)くんの家に行っていい? ふたりきりで話したいんだ」


コクン。

もう逃げられないと観念したぼくは、ゆっくりうなずいた。


『ふたりきり』

たしかに先輩はそう言った。


だけどどうして、先輩は、ぼくの家に誰もいないって知っているんだろう?


もちろん、ぼくは先輩と話した事なんてないから、当然、お母さんが看護師だっていうことも知らないのに……。



「どうしてだと思う?」


不思議に思って首を傾げると、まるで先輩は、ぼくが疑問に思っていることを知っているかのように、逆に訊(たず)ねてきた。


「中学二年の半ば、くらいかな。君の視線に気がついたよ」

家の前に着いたぼくは、先輩の腕から抜け出ると鍵を開けた。

先輩は、ぼくが自分の部屋に案内したあと、静かにそう言った。


「っつ、ご、ごめんなさい」

……はじめは、ストーキングなんてするつもりはなかったんだ。

先輩とはちょっと廊下ですれ違った、それだけで、とても嬉しかった。


だけど――家に帰っても、お母さんはお仕事で、夜はひとりきり……。

お父さんは、お母さんと離婚してから電話ひとつもくれなくて――。


学校にいる時も、どこにいても、とても寂しくて……。

心細くて……。


そういう気持ちを紛らわすために、先輩への追っかけが少しずつエスカレートしていったんだ。


私生活を望遠鏡で覗くなんて、いけないことだ。





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