chapter:追って追われて恋模様。 「翔夢(つばさ)くんの家に行っていい? ふたりきりで話したいんだ」 コクン。 もう逃げられないと観念したぼくは、ゆっくりうなずいた。 『ふたりきり』 たしかに先輩はそう言った。 だけどどうして、先輩は、ぼくの家に誰もいないって知っているんだろう? もちろん、ぼくは先輩と話した事なんてないから、当然、お母さんが看護師だっていうことも知らないのに……。 「どうしてだと思う?」 不思議に思って首を傾げると、まるで先輩は、ぼくが疑問に思っていることを知っているかのように、逆に訊(たず)ねてきた。 「中学二年の半ば、くらいかな。君の視線に気がついたよ」 家の前に着いたぼくは、先輩の腕から抜け出ると鍵を開けた。 先輩は、ぼくが自分の部屋に案内したあと、静かにそう言った。 「っつ、ご、ごめんなさい」 ……はじめは、ストーキングなんてするつもりはなかったんだ。 先輩とはちょっと廊下ですれ違った、それだけで、とても嬉しかった。 だけど――家に帰っても、お母さんはお仕事で、夜はひとりきり……。 お父さんは、お母さんと離婚してから電話ひとつもくれなくて――。 学校にいる時も、どこにいても、とても寂しくて……。 心細くて……。 そういう気持ちを紛らわすために、先輩への追っかけが少しずつエスカレートしていったんだ。 私生活を望遠鏡で覗くなんて、いけないことだ。 |