chapter:追って追われて恋模様。 分かっているのに、自分のやましい心を止められなくて……。 いざ、先輩と向かい合うと罪悪感がぼくを襲う。 ぼくは先輩から顔を逸(そ)らし、ズボンの生地をギュッと掴んだ。 きっと、怒られる。 覚悟して、目をギュッとつむる。 だけど、先輩は怒る素振りを見せなかった。 「謝らなくても良い。俺も同じだから」 「えっ?」 思ってもみない言葉を耳にして、反射的に顔を上げると、先輩は、眉尻を下げて、にっこり微笑んでいた。 「視線を送ってくる君が可愛くて、つい、俺も君を見ていたから。 ……だから知っていたんだよ。君のお母さんが看護師をしていて、今日は翔夢くんは、ひとりきりだっていうことを……。」 「あっ、あのっ?」 先輩からの言葉は、ぼくが予想していたものじゃなくて、焦ってしまう。 口は開閉を繰り返すばかりで、言葉が出ない。 「好きだよ。振り返れば、普段はあまり笑わない君が頬を染めて、心の底から嬉しそうに微笑んでいる君が……。 お母さんを手伝うために、アルバイトをしていることも。 そうやってアルバイトだけでも大変なのに、勉強だって、順位を落とさず、ずっと真ん中よりも上をキープしていることも――とても健気で、可愛らしい」 先輩の、真っ直ぐな視線が、ぼくを射貫く。 「……せんぱ……」 見とれていると、ベッドに押し倒された。 「あ、あの……せんぱいっ!?」 ぼくの、ずっと目の前には、格好いい先輩がいる。 |