chapter:えぴろーぐ。 次の日から、先輩はぼくと一緒に登校している。 もう、すし詰めの電車も苦手じゃなくなり、それどころか、満員電車も前よりずっと好きになった。 先輩は、人が多いからと、ぼくを抱きしめてくれる。 もう、痴漢みたいなこともされない。 ……たまに。 手持ち無沙汰になるのか、少しだけお尻を撫でられたりもするけれど……。 でも、大好きな先輩なら、イヤじゃない。 それからぼくはまた、望遠鏡を手に取った。 とても幸せだ。 ――そして今は、お昼休憩中。 グラウンドでバスケットボールをしている先輩の姿が見えた。 レンズ越しで彼を発見すると、先輩はぼくに気がついたみたい。 視線が重なった。 すると先輩は、自分の唇に人差し指を当てた。 「?」 なんだろう? 首を傾げ、レンズ越しから先輩を見つめる。 先輩はにっこり笑って、薄い唇を動かす。 唇を窄め、それから、横に広げる。 唇の動きのままに発音してみる。 「ス、キ」 っつ!! 「ふにゃあああ……」 「おい、どうした? 真壁!?」 全身から力が抜けてしまったぼくは、もう放心状態だ。 頭上からは、ぼくを心配するみんなの声が聞こえるけれど、もう何も頭に入らない。 ぼくはただただ床にへばりついた。 *えんど* |