追って追われて恋模様。
番外編 第一話





chapter:見つめて見つめられて恋模様。







 ガタン、ゴトン。

 揺れる車内は、いつものごとく、とてもギュウギュウ詰めだ。

 だけど、今日は昨日のように、人に押されることはないし、苦しくはない。

 目の前には、大好きな人がいて、ぼくを守るように立ってくれているから。

 そんな彼はまるで王子様だ。

 大好きな人っていうのは、ぼくよりもひとつ年上の人で、同じ学校に通っている、三浦 健遙(みうら けんと)先輩。

 先輩のおかげで、いつもみたいに息苦しくはない。

 でもね、別の意味で、息ができない。

 だって、大好きな先輩と一緒にいるんだよ?


 ――それは昨日の夜。

 先輩と両想いになったんだ。

 しかも、しかも、先輩に抱かれたのっ!!

 ……うう。

 昨日のことを考えただけでも、もう頭がグルグルする。

 胸がドキドキして、息ができないよっ!!

 それでも、先輩はとても格好いい。

 先輩の視線が窓の外にあることを見計らい、先輩を見る。

 ああ……。やっぱり先輩は格好いいな〜。

 長いまつげに、二重の細い眼。そして男の人らしい薄い唇。

 あの唇と、昨日、ぼくはキスをしたんだよね。

 朝から不埒(ふらち)なことを考えていると、先輩はぼくの視線を感じ取ったらしい。窓の外を見るのをやめた。

 ぼくは慌てて先輩から顔を逸らし、うつむく。

 そんなぼくに、先輩は腰を屈め――さっき見ていた薄い唇が、ぼくの耳たぶに触れた。


「あまり、縋(すが)るような目で俺を見ないで。そんなふうに見つめられると、今すぐ食べちゃいたくなるでしょうが……」

 ボソッ。

 耳元で囁かれた。

「っせ、っ知、し、って!!」

 先輩はどうやらぼくが見つめていたことを知っていたらしい。

 先輩のあたたかな息が耳孔から身体中に行き渡る。

 ……ああ、もうダメ。


「ふにゃあああ〜」

 ぼくの身体から、力が抜けて動けなくなっちゃった。

 その日、ぼくは先輩におんぶをしてもらって登校しました。



 *えんど*


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