chapter:見つめて見つめられて恋模様。 ガタン、ゴトン。 揺れる車内は、いつものごとく、とてもギュウギュウ詰めだ。 だけど、今日は昨日のように、人に押されることはないし、苦しくはない。 目の前には、大好きな人がいて、ぼくを守るように立ってくれているから。 そんな彼はまるで王子様だ。 大好きな人っていうのは、ぼくよりもひとつ年上の人で、同じ学校に通っている、三浦 健遙(みうら けんと)先輩。 先輩のおかげで、いつもみたいに息苦しくはない。 でもね、別の意味で、息ができない。 だって、大好きな先輩と一緒にいるんだよ? ――それは昨日の夜。 先輩と両想いになったんだ。 しかも、しかも、先輩に抱かれたのっ!! ……うう。 昨日のことを考えただけでも、もう頭がグルグルする。 胸がドキドキして、息ができないよっ!! それでも、先輩はとても格好いい。 先輩の視線が窓の外にあることを見計らい、先輩を見る。 ああ……。やっぱり先輩は格好いいな〜。 長いまつげに、二重の細い眼。そして男の人らしい薄い唇。 あの唇と、昨日、ぼくはキスをしたんだよね。 朝から不埒(ふらち)なことを考えていると、先輩はぼくの視線を感じ取ったらしい。窓の外を見るのをやめた。 ぼくは慌てて先輩から顔を逸らし、うつむく。 そんなぼくに、先輩は腰を屈め――さっき見ていた薄い唇が、ぼくの耳たぶに触れた。 「あまり、縋(すが)るような目で俺を見ないで。そんなふうに見つめられると、今すぐ食べちゃいたくなるでしょうが……」 ボソッ。 耳元で囁かれた。 「っせ、っ知、し、って!!」 先輩はどうやらぼくが見つめていたことを知っていたらしい。 先輩のあたたかな息が耳孔から身体中に行き渡る。 ……ああ、もうダメ。 「ふにゃあああ〜」 ぼくの身体から、力が抜けて動けなくなっちゃった。 その日、ぼくは先輩におんぶをしてもらって登校しました。 *えんど* |