chapter:引っ込み思案なぼくの必需品は携帯望遠鏡。 というか、ドキドキしすぎて話すことなんてできない。 なんたって、三年越しの恋だもん。 ぼくはこっそり三浦先輩を見るだけだ。 きっと三浦先輩は、隣に住むぼくが、後輩だなんてことも知らないだろう。 一目惚れをした時のことだって覚えていないはずだ。 一目惚れのきっかけは、ぼくが中学での入学式の日だった。 広い中学で体育館が分からなくて、迷ってしまった時、たまたまそこに居合わせて、声をかけてくれたのが三浦先輩だったっけ……。 どうしようかとドギマギしていたぼくを宥めるため、頭を撫でてくれたっけ……。 二重の目を細めて笑ってくれたその表情が降り注ぐ陽の光に照らされて、とても綺麗だった。 あの時の三浦先輩の表情や手のあたたかさが、時間が経った今でも残っている。 その先輩がお隣さんだと知ったのは、それから、少し経ってから。 お父さんと離婚したばかりの引っ越しだったから、気付けなかった。 三浦先輩がお隣さんだって分かってから、それまで以上に、ぼくは毎日、学校でも家でも、暇さえあればこうして三浦先輩を望遠鏡で覗いている。 ぼくがストーキングをしていることは、もちろん先輩には気付かれていない。 まあ、ぼくって印象薄いし、気に留める必要性はまったくないもんね。 だけどそれは、実はぼくの思い込みにすぎなかったんだ。 |