chapter:ストーキング、できなくなっちゃった。 「せ、せんぱ、い……なんで……」 すし詰め状態の満員電車の中。 ぼくはお尻の穴に挿れられた指からなんとか逃れたくて振り向けば――。 そこには、背の高い、すらりとした体型の、三浦先輩がいた。 訊(たず)ねたぼくの声が震えている。 それが自分でもよく分かった。 「君が俺のストーカーをしているの、ずっと知ってた」 「っつ!!」 それって、それって……。 先輩のたったひと言で、ぼくの身体から血の気が引いていく。 「初めはただの思い過ごしかと思ったんだけど、常に視線を感じるし、視線を追えば、君が必ずいて、しかも学校だけじゃなくて、家でも視線を感じたから、家のお隣が君だと気がついたんだ」 もしかして、電車の中で痴漢していたのは、ぼくへの嫌がらせ……。 ぼくへの当てつけ……だったんだ。 ああ、先輩はぼくが思っていたよりもずっと、気がついていた。 苦しい。 悲しい。 先輩に知られたことが――。 先輩を苦しめてしまっていたことが――。 とても惨(みじ)めだ。 「真壁(まかべ)くん。もう、こんなこと、やめよう?」 そう言った先輩の声は、やっぱり優しくて――結果として、それが余計に視界を滲(にじ)ませる原因になる。 「ごめっ、なさっ……」 ぼくが痴漢されるのをイヤって思ってたのと同じように、先輩もぼくのこと、そうやってイヤって思ってたんだ。 |