chapter:どうしてこうなってしまったのだろう。side:有栖川 霧我 バタンッ!! 静かな部屋におもいきり強く響いたドアが閉まる音。 それは俺が大切にしたいと思っていた鈴が出て行った音を表していた。 別れ際、鈴の泣きそうな顔が閉じている瞼の裏に焼き付いて離れない。 「……なぜ、あんなことをしてしまったんだろう」 後悔してももう遅い。 いや、ギリギリセーフだったとも言うべきだろうか。 俺は頭に両手を当ててうずくまる。 さっき、俺がしようとしていたことが脳裏に蘇る。 俺は――……。 この場で鈴を襲おうとしていたんだ。 思いきりキスをして、舌まで入れて……。 その挙句、カッターシャツをはだけさせようとしていた。 鈴を……抱こうとしてしまったんだ。 鈴は、正直、色恋沙汰にはまったくといっていいほどとても疎(うと)くて純情で、のほほんとしている。 だから、こういうことはよくないと日頃から自分に言い聞かせていたのに、それを忘れてしまうなんて。 鈴と付き合いはじめた頃はそれでよかった。 だが、鈴の近くにいると、もっともっとと欲しがる自分がいる。 いつからそうなったのだろうときっかけを探してみると、それは間違いなく3日前の、大雨の帰り道だ。 あの日、昼まで雲一つない青空が広がっていたというのに、放課後の帰宅する時になってから灰色の雲がかかってきた。 夕立ちになるとふんだちょうどその時、大粒の雨が空から降ってきた。 |