chapter:我慢できなくて。side:有栖川 霧我 それは、鈴からの別れの言葉――。 てっきり、こんな根暗な俺に愛想を尽かしたのだと思った。 もう、こんな関係はイヤだと断られる。 そう、思ったのに……。 「好きなのに、どうしたらいいの?」 そんな可愛いことを言われたら、もう理性なんてどうでもよくなってしまう。 大きな目で子犬のようにすがられて訴えかけられたら抱きしめることしかできない。 濡れた唇で俺の名前と好きだと告げられたら、塞ぐことしかできなくなる。 俺は口を思い切り開けて鈴の濡れた小さな唇にかぶりついた。 「ん、んっ」 かわいい戸惑うような声が余計に俺を刺激することを、鈴は知らない。 きつく、きつく抱きしめて、腕の中にいる鈴を逃さないように閉じ込める。 「は……」 息苦しくなったのだろう、鈴の口がひらく。 俺はすぐさま、鈴の口内に舌を忍ばせた。 「んぅ、にゅ……」 苦しそうに放つ声が、泣いたことで鼻声になっている。 それがまた色っぽくて俺を惑わす。 「ぁ、まが……」 おそらく俺の名を呼ぶ鈴。 だが、舌を絡めているせいで正しい発音ができない。 舌っ足らずな言葉さえも俺を陥れる。 かわいい鈴。 俺の欲望も何も知らない鈴。 それなのに、好きだと告げてくる鈴。 「鈴、鈴。好きだ」 |