chapter:さよならなんて言わせない。Side:有栖川 霧我 ――今日は日曜日。 そして午後1時少し前――。 行き交う人々の喧騒の中、南駅の改札口で俺は彼を待つ。 彼というのは、俺の恋人である、雨宮 鈴(あまみや すず)――。 今週の金曜日の放課後。 去り際に言われた、「バイバイ」という言葉。 あれはおそらく彼なりの、「別れよう」だろう。 だが、俺はそんなことは認めない。 鈴だって、本当はそんなことを望んでいないと思う。 言った彼のふっくらとした唇は小刻みに震え、大きな目は潤んでいた。 それに……普段弧に曲がっている眉は悲しそうにハの字になっていた。 一方的な約束だが、鈴はきっと来てくれる。 俺のことをまだ好いてくれている。 その自信は、まだある。 いつまでだって鈴が来るまで待ち続けてやる。 俺の心と同じように、どんよりと曇っている空を見上げながら、ひとり。強く決意した――……。 固く決意したその俺に、鈴は来ないと、まるで否定してくるように吹いてくる冬の冷たい風は、木枯らしと一緒に俺を包み、通り過ぎていく……。 手を強く握り、拳をつくっても一向に寒さは消えない。 ――……。 ――――…………。 どれくらい過ぎただろうか。 空は分厚い雲に覆われ始めた。 鈴はまだ、姿を現さない。 身体はもう冷え切って、寒ささえもわからない。 俺の前にはカップルが楽しそうに手を繋いで歩いていく……。 俺に……見せびらかすようにして――……。 鈴、好きだよ。 君しか見えない。 不器用な俺を好いてくれているあたたかな君の笑い声や緩んだ表情を見るのが何よりも安らぐんだ。 好きなんだ……。 頼むから、来てほしい。 もう一度チャンスをくれないかな……。 首にマフラーを巻いても、コートを着ても、防寒してもまったく暖かくならない俺の心。 鈴――……。 折れすぎた心と共に柱に寄りかかっていた身体が崩れる。 膝が折れ、地面にしゃがみ込んでしまった。 そうしてぼんやりと腕にはめている時計を見れば、もう3時。 ……待ち合わせよりも2時間が過ぎたというのに、鈴はやはり来ない。 |