chapter:ぼくだって!side:雨宮 鈴 緊張して身体が硬くなっちゃって、首を動かすことができないから、当然周りも見ることができない。 だから神経を使って周りの気配を窺うと、やっぱり誰もいる気配がない。 思ったとおり、ふたりきりだ。 バックン、バックン。 ぼくの心臓がとてもうるさい。 離れている霧我にも聞こえちゃうんじゃないかなっていうくらい。 『念願が叶うよ』 また、紅葉の言葉がぼくの頭で大きくこだました。 「もう、うるさいっ!!」 「鈴?」 あ、しまった。 ぼくの頭の中で話している紅葉を黙ってもらおうとした言葉が、声に出しちゃったよ。 すぐに両手で口をふさぐけど、それももう遅い。 霧我は眉根を寄せて振り返った。 この目は……知ってる。 悲しい気持ちになってる目だ。 ちがうの、ちがうのちがうのちがうの!! 霧我をうるさいって言ったんじゃなくって!! 「すまない、おせっかいがすぎたか」 眉根を寄せて眉間に皺をつくっている。 みんなから見れば、きっと今の霧我は怒っているように見えるかもしれない。 でも、本当は違うんだよね? 霧我、霧我、霧我。 ああ、どうしよう。 ぼくの中で、霧我がいっぱいになっちゃった。 そうしたら、もう恥ずかしいとか関係なくって、気がついたらパフンって、振り返った霧我の胸に抱きついていた。 |