chapter:限界。side:有栖川 霧我 鈴を置いて出て行くなんてそんなこと、有り得ないのにな……。 「鈴……」 そっと話しかければ……。 「むがぁ……」 細い腕を俺の腰に巻きつけてすがってくる。 かわいい鈴。 大切にしたい鈴。 だからこそ、すぐ性欲にはしるのはよくないと思う。 背中をさすって、流れる涙を無くしてやろうとすると、鈴は余計に泣き出してしまう。 鈴。 俺のかわいい鈴。 「ひっく、ひっく……」 どのくらい過ぎただろうか。 鈴の泣き声が治まり、しゃくりだけが聞こえてくると、俺は口を開けた。 「鈴、どうしてこんなことをしたんだ?」 ビクッ。 小さく肩が震えたのを俺は見逃さない。 「鈴」 「ごめんなさい……もう、もう……しないから……ごめんなさい。もう、もう気持ちよくなってほしいって思わないから……っく、ううぅ……」 怒っているように思っているのか、鈴はそう言って謝ってくる。 『気持ちよくなってほしいって思わない』 鈴の言葉が俺の頭の中で反芻(はんすう)する。 ――ああ、鈴。 それでキミは俺と繋がろうとしてくれたのか。 君は……君はなんて……。 嬉しさが込み上げてくる中、鈴はまたしゃくりをしながら言葉を紡ぐ。 その言葉で、上昇した気持ちが一気に冷えた。 |