chapter:さよならなんて言わせない。Side:有栖川 霧我 そっと小さな唇を動かし、鈴は、ぽつり、ぽつりと話しはじめる。 「なぜ?」 ベンチに腰掛け、隣にいる彼にそっと問えば、鈴はむぅっと口を突き出した。 ――怒っているのだろうか。 その突き出した唇さえも愛おしくて、吸い付きたいくらいだ。 「霧我、ぼくの話、聞いてる?」 正直、鈴の話は聞いてない。 君の一挙一動に俺の心が揺れ動くから、それどころじゃない。 「ああ」 だが、そんなことを言えば、鈴は今よりもずっと不機嫌になるだろう。 この後、また別れると言われたら、たまったものじゃない。 「ほんとうに?」 「……ああ」 「むぅ、やっぱり聞いてない……」 そう言って、頬を膨らませる鈴。 「ぼくね、霧我の側にいるとワガママになるの」 地面に顔を俯けて、静かにそう言った。 「鈴のわがままは、可愛いぞ?」 俺の言葉に俯けた顔を上げて、目を大きくした。 信じられない。 そんな言葉が聞こえる。 「嘘じゃない」 「だって、だって!! ぼく、ひどいことを言ったよ?」 ――霧我なんて、電柱に頭をぶつけて無傷でいたらいいんだ―― ああ、あれのことか? いや――……。 電柱に頭をぶつけても結局無傷なんだろう? まったく酷いことではないと思うが……。 そう思うけれど、口に出さないのは言ったところで彼の反感をまた買うと思ったからだ。 |