れんやのたんぺんしゅ〜★
花盗人 ※r18





chapter:花盗人







 ラトヴィッジ=グレイモンド。

 その名は俺たちのような明日の生活さえも心配しなきゃいけない人間でさえも上流階級の貴族としてかなり有名だ。

 その屋敷に、俺は捕らえられていた。



「何故、盗みをはたらいた」

 男はへの字に曲がった薄い唇を開き、訊(たず)ねた。


 ――そう。俺は盗みをはたらいた。

 畑に生えている薬草を、ちょっとばかりくすねようとしたんだ。そこへ見回りにやって来た警官に取り押さえられ、たまたまやって来たそこの地主――つまりはラトヴィッジ=グレイモンドに捕らえられた。


 俺が捕らえられたのは地下室で、冷たくて薄暗い牢屋だ。

 時刻は深夜二時。夜の闇を照らす唯一の月光は遙か頭上にある小さな鉄格子からしか差しし込まない。

 俺は天井に吊してある頑丈な鎖で両腕を繋がれ、宙吊りの状態で吊されている。

 俺の目線と同じ高さにある鋭い眼光を持つそいつの声は唸り声にも近く、低い。

 表情は暗くてわからないけど、冷たい声をしているから、きっと性格も冷たい奴なんだろう。

 上流階級の奴らなんて、みんなそんなもんだ。貧しい俺たちをただのゴミくずのように見ているんだ。

 そんな奴らに、どうして俺が盗みをはたらいた理由を言う必要がある?

 どうせ俺を蔑(さげす)み、笑うだけなのに!!

「誰が言うかっ!」

 声を張り上げ、噛みつくように言った俺。その態度が気にくわなかったのか、そいつは俺が着ていた継(つ)ぎ接(は)ぎだらけの服に手をかけ、引き裂いた。


「ならば、答えさせるまでだ」

 目の前のそいつはそう言うと、剥き出しになった俺の乳首に触った。

 何をするつもりなのかわからない。だけどそいつがすることはイヤな予感しかなくて、逃げようと身体をひねる。

 でも、身体を拘束している頑丈な鎖はびくともしない。

「何、するんだっ! はなせっ!! 俺に触るなっ!!」

 この男が何をするのか想像が付かなくて怖いのに逃げ出すこともできず、ただ拒絶の言葉を吐く。

 だけどそいつは俺の言葉なんて聞く耳すら持ってなくて、両胸にある乳首を摘んだり引っ張ったりしてくる。

 男にはあっても無い場所。乳首なんて触られたって感じない。そう思っていたのに、なんで?

 チクチクする。それに、身体が少しずつ熱を持ちはじめているのは気のせいだろうか。

「尖ってきたな」

 言うなり、そいつは俺の乳首を口に含んだ。そうかと思えば、舌で舐め取ったり、甘噛みしたりと、女性にするような行為を俺に向けてくる。

「っひ!! ん、あっ!」


 なんで? 俺は上げる声が女性みたいになってるわけ?

 それに、下肢にある俺の陰茎が、身をもたげはじめている。


「ほぅ? もう感じているのか。感度はいいな」

 そいつは俺の下着をズボンごと引きずり下ろした。

「やっ、やだっ!!」


 羞恥が俺を襲う。俺の身体を隠すものは、もう何もない。


「ならば言え。何故、盗みをはたらこうとした」

 ふたたび訊ねられたが唇を引き結び、答えない。

 男の手は俺の陰茎に触れた。男の大きな手の中にすっぽりと包み込まれた。

「っひ」

「小さいな」

 にやりと笑う気配が伝わってくる。

「いやっ、触るなっ! やあっ!!」

 根元から先端へ。扱いて、少しずつ、だけど確実に、俺を追い上げてくる。先走りが流れはじめた。

 俺の陰茎を包む男の手が動くたび、水音が生まれ出る。

「いやっ、やめろっ!」

 他人に――しかも同じ性別の男にこんなふうにされるのは屈辱意外の何ものでもない。

 俺は必死に首を振り、この快楽から遠ざかろうとする。だけど、男は慣れているのか、手を止めない。

 イく……。

 そう思った時だった。男は俺から手を離し、尻の孔に指を差し向けてきた。

「っひ!!」

「さあ、言え。でなければ、ここを貫くぞ?」

 それでも意地になっている俺は首を横に振る。

 そうしたら……。


 ツプン。

 音を立て、男の指が中に入ってきた。

「っひ、ぐぅううっ!!」

 入れられる異物感。肉が引き裂かれそうな痛みが俺を襲う。

 だけど、それもほんの少しの間だった。

 俺の中にある一点に男の指が触れた時、身体が大きく跳ねた。

 強烈な何かが突き上げてくる。

「前立腺だ。ここを擦れば、うんと気持ち良くなる」


「っふ、あああっ、やっ、こすらないでっ、やめてっ、っひううっ!!」

 先走りがたくさん噴き出すのを感じた。身体を捩り、止めてほしいと告げるのに、だけど男は止めない。

 それどころか、さらに俺を苦しめてくる。

 男はズボンのジッパーを外し、反り上がった大きな肉棒を俺の尻の孔にあてがってきたんだ。

 

「っひ、ああっ!!」

 指とは比べようにもならないほどの太い男の肉棒が、俺を貫く。

 浅い抽挿を繰り返して前立腺を刺激する。

 イく。

 そう思ったら、だけど男の手は俺の根元を握りしめ、解放を妨げた。


「達したいだろう? 言えば解放してやる。どうだ?」

 誰が言うかっ!!

 いまだに反抗心が勝っている中、だけどそれも限界に近づいていた。

 男は俺の根元を押さえながら、抽挿を繰り返してきた。

「っひ、ああっ、イきたいっ、イかせてっ!!」

 快楽に抗えず、とうとう口にすれば――。

「ならば言え」

 これで何度目になるのか。男は同じ言葉を連ねた。


「弟が、風邪をひいて、高熱、さがらなくてっ! くすり。薬草、がほしくてっ……」

 言った瞬間だった。あんなに強く握られていた俺から、手が外され、腰を掴まれた。

 俺の身体が男によって揺すられた。

 肉棒が俺を勢いよく貫く。


「ん、あああああっ」

 開放感で視界が閉じる。

 意識が途切れた。


――……。

――――……。



 窓から差し込む明るい月光が、部屋を包む。

 気が付けば、天蓋の付いた高価そうなふかふかのベッドの上に、俺はいた。

 肌触りの良い生地が触れて見下ろせば、破かれた服は姿を変えて、着ていた。というか、着せられた……らしい。

 男に抱かれた痕跡は綺麗に拭き取られ、消えている。

 意識が朦朧とする中で、瞬きを繰り返せば、目の前には……だれ?

 とても格好いい男がいた。

 年は俺よりも七歳は上だろうか。二十八歳ほど。目は鋭いけれど、怖さはない。しっかりとした輪郭に、尖った顎。薄い唇はほんの少し、口角が上がっているように見える。襟足までのやや長めの髪の男がいた。


「これを持って行け」

 そいつは俺に巾着袋を差し出した。

「えっ?」

 恐る恐る受け取って、中身を見ると、そこには、鎮痛作用や解熱作用がある、カモミールがたくさん入っていた。

 俺が畑で取ろうとした薬草だ。

 俺には四つ離れた弟がいる。弟は身体が弱くて、すぐに風邪をこじらせてしまうんだ。俺の両親は四年前に流行病で他界し、俺は煙突掃除なんかの仕事をして、弟とふたりきりで生きていた。


 煙突掃除は高いし、熱が吹き出るところだからとても危険だ。だから裕福な奴らは、貧しい生活を虐(しいた)げられている俺たちにその仕事を押しつける。命を張ってするその仕事だけど、もらえる賃金はかなり少ない。そういうわけで俺には弟が高熱を出しても薬を買ってやれるだけの金がないんだ。


 上流階級の奴らって、俺たちを下僕扱いする。

 でも、目の前のこの男はなんか違う。盗もうとしたカモミールを差し出すなんて、どうかしてる。


 というか、そもそも俺は無理矢理この男に抱かれたんだ。しかも服も破られた。

 それなのに、俺は何故だろう。男に対して抱かれた憎しみがないなんて……。

 俺は時分の感情に戸惑いつつも受け取った袋を見つめた。


「あ、ありがとう」

 感謝の言葉が素直に俺の口からすべり出たことに、自分でも驚いた。

「無理矢理抱いたのに礼を言うのか?」

「それは、ゆるさねぇよっ!!」

 男に抱かれた身体が熱くなる。それは何なのか、よくわからない。怒りのような、それでいて、もっと別の感情みたいだ。

「そうか」

 俺、ヘンだ。目の前の男に無理矢理抱かれたのに、クツクツと笑うその声が、なぜか心地いいと感じた。


 身体は怠いものの、軽く感じるのは何故だろう。


 その日。朝日が昇る前。俺はラトヴィッジ=グレイモンドから解放され、もらったカモミールを両手にしっかり抱きしめながら家に帰った。

 これで弟の熱が下がることを確信して……。

 だけど、世の中は俺の考え通りにはいかない。

 四年前に両親に先立たれ、たった二人きりの兄弟で暮らしている六帖一間の小さな家。戸口の前に立った俺の耳に、弟の叫び声が聞こえた。

「いやだっ! はなせっ!!」


 慌てて家に入れば、寝間着姿の弟は、でっぷりとした体格の中年男に引きずられ、大きな目から涙を流していた。

 弟を引きずるこの男は知っている。借金の取り立て屋だ。

「なにをしてるっ」


「滞納している金を払え。無理なら代金の代わりに身体を売って稼いでもらわなきゃな」

 弟の寝間着がビリビリと破ける音が俺を襲う。

「っひ、やっ、兄さんっ!!」

 くそっ、またかよっ!!

 さっき俺も今の弟と同じような目にあったことを思い出し、怒りが込み上げてくる。

 殴りかかろうとしたら、横からやってきた手に受け止められた。

 筋肉質の、ガタイがでかい男だ。

「おっと、お前はこいつらが相手をするよ」

 背後からもうひとり現れたかと思ったら、俺の身体は拘束され、腰を持ち上げられた。

「こいつ、シルクの良い服着てるじゃねぇか。金がないなんて嘘じゃないのか?」

 破かれた服の代わりに着せられた新しい服は、また破られていく……。

 何故だろう。胸が張り裂けそうに痛むのは。苦しいのは……。

 ついさっき、破られた服よりも、今の服を破られたから。

 ズボンを下ろされ、あらわになる俺の身体。


「やっ、やめっ!! いやだあああっ」

 俺の脳裏に、何故か、あの男の顔が浮かんだ。

 両足を広げられ、尻の孔を触られる。

「っひぅ……」

 さっきラトヴィッジに挿入(い)れられた感覚が呼び戻され、甘い痺れが俺を襲った。

「おい、こいつ、男を知ってるぜ? 中が緩い」

 中をこじ開けられ、太い指が挿入する。だけどこの指は、ラトヴィッジじゃない。

 そう思ったら、涙が溢れてくる。

 何故? わからない。だけど、胸が苦しい。痛い。

 それなのに、前立腺を刺激され、うんと中を擦られて感じる俺は、抵抗するのも忘れて腰を揺らす。

 俺自身からは先走りが流れはじめていた。

「ほら、よく見ろ。いい顔をしてるだろう? お前もこの後、お前の兄さんのようになるんだよ?」

「やっ! やめっ!!」

 顎を固定され、俺を見る弟は拒絶したいのにできなくて、乱れる俺を見てくる。純粋な弟の視線が苦しい。

「みるなっ、やっ、っはぅうう」

「視姦が気に入ったのか、下が垂れ流しじゃねぇか? はしたない」

 もうひとりの男の手によって、俺の陰茎が包まれた。

「あっ、っひ」

 陰茎に触れられて、快楽がじわじわと追い詰めてくる。

 流れ続ける先走りは留まることなく溢れ出す。

「あっ、あっ!」


「はしたない下半身にはおしおきが必要だな。二輪挿しとかどうよ?」


 男はそう言うなり、俺の顎を持ち上げた。

 目の前に見えるのは、赤黒く反り上がった肉棒。

 そして尻の孔にも硬い何かが当てられた。それはきっと男の肉棒だ。

 二輪挿しって、まさか!!

 イヤな予感しかしない。

 恐怖で埋め尽くされたその瞬間、俺の尻の孔をこじ開けてきた。

「っひ!! いたっ、痛いっ、いやだ、むぐぅううっ」

 反り上がった肉棒が俺の悲鳴を掻き消す。生臭い匂いと共に、大きいそれが口内に入ってくる。

 尻の孔には押し進もうとするもう一方の肉棒がある。

 いくらさっき挿入されたからといって、慣らされていない孔にすぐ挿入(はい)るわけがない。それなのに、肉棒が挿入ってこようとする。俺の孔が悲鳴を上げる。

 襞が引き裂かれていく……。

 尋常じゃない痛みが俺を襲う。

 それなのに、俺の中に挿入する男たちは下卑た笑い声を上げる。

 助けて。こいつらに抱かれたくない。イヤだ。

 ラトヴィッジ、ラトヴィッジ!!


 頭に浮かんだその人の名前を無我夢中で心の中で呼び、助けを乞う。

 苦しくて、悲しくて、涙が溢れてくる。


「そこで何をしている?」

 悲鳴ばかりが木霊する空間を突き破り、突然聞こえた低い声。冷たいものなのに、何故か俺の心が揺れる。


 助けて!!


「貴様ら……」

 歪んだ視界。声がする方に顔を向ければ、そこに、金髪の綺麗な男。ラトヴィッジ=グレイモンドがいた。

 ラトヴィッジは借金取りに取り押さえられている俺の弟と、それから組み敷かれている俺を見るなり、たった一人で男たち数人に殴りかかった。

 解放された俺は弟の傍に駆け寄り、部屋の隅に移動した。弟の身体は焼けるように熱い。

 風邪が酷くなっているんだ。

 俺が弟を抱きしめると、同時に弟の身体から力が抜け落ちた。恐怖と、それから熱が体力を奪ったらしい。

 ラトヴィッジは強かった。ガタイの良い男二人をあっという間に片付け、一網打尽にした。

「っひ、こいつらが借金を払わないから悪いんだ」

 首根っこを掴まれ、怯えた表情をする借金取りは、隅っこで弟を抱きしめる俺を指す。

 どうしよう。人買いにやられるのか?

 固唾をのんで見ていると、ラトヴィッジは胸元にあった青の宝石を取り、男に投げつけた。

「これで十分足りるだろう。その醜い面など見たくもない。もう俺の前に二度と現れるな!」

 ラトヴィッジが怒鳴れば、男は尻尾を巻いて逃げ出した。

 家の中は再び静寂が戻った。


「大丈夫か?」

「っひ!」

 助けてくれたと思うのに、怖くてラトヴィッジを拒絶する。身体を丸め、意識を失っている弟をしっかり抱きしめたままいると、彼は俺の頭を優しく撫でた。

 さっき、男たちを叩きのめした同じ手とは思えないほど、優しく……。

「大丈夫だ。俺はもう、何もしない」

 弟を抱きしめている俺ごと包み込む腕があたたかで……。


 割れ物のようにそっと包む。



 どうして助けてくれたの?

「なんで……俺をたすけた……」

 口の中が乾きすぎているおかげで、声は掠れている。

 それでもラトヴィッジは俺の言葉をしっかりと聞き入れた。


「お前のことが、その、気になって……」

 その言葉はシンプルなのに、とても言いにくそうだ。



「俺、俺、あんたに無理矢理抱かれたのに……あいつらに襲われそうになった時、あんたの顔が浮かんだんだっ」

 安心した俺の目から涙が零れた。

「居場所がないなら俺のところに来なさい。弟さんには付きっきりの看病が必要だ。それに、腕の良い医者も」

「でも、俺、金がないっ」

「言っておくが、別に君の身体が目当てではない。君が傍にいてくれるだけでいい。無理して抱かれる必要もない。どうやら俺は君に惚れたらしい」

 ラトヴィッジはそう言うと、目を細めて微笑んだ。その表情に、俺の胸が大きく跳ねた。

 ――ああ、俺。俺も惚れたみたいだ。

「っつ!!」


 どうしよう。盗みに入ったつもりだったのに、ラトヴィッジに俺の心を盗まれた。



 **END**


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