chapter:復襲-hukusyu*u- 滑らかで健康的な肌をした細身の身体を揺らし、淫らに喘ぐこの男は本当に、あの口うるさい今泉 誠史朗(いまいずみ せいしろう)だろうか。 口を開くたびに、『あれができてない』『これもまだだ』とまくし立ててくる彼とは思えないほど従順で、艶やかだった。 ことの発端は、会社の一環での飲み会だ。 俺が務めている会社は外資系企業で、今泉さんは今年新卒したばかりの俺の先輩だ。 彼は仕事ができる。そのおかげで上司(ボス)に気に入られ、上司からすすめられた酒を断れるはずもなく、酒を飲まされ、酔い潰れた。そして俺、柾木 千賀哉(まさき ちかや)は、彼を家まで送るよう、命じられたのだ。 今泉さんは何かと言えば俺を目の敵にしているものだから、上司は俺が適任だと思ったらしい。 この口うるさい先輩を送るなんて冗談じゃない。 だけど上司に命じられれば嫌とは言えない。 だから仕方なく、俺はタクシーを拾い、意識が朦朧としている彼の譫言(うわごと)を信じて、無事、彼の自宅まで送り届けた。 八階建てのマンションはとてもシックで、六帖二間にカウンターキッチンがあって、洒落ている。さすができる人間は違う。 俺よりも頭一つ分背の高い今泉さんを引っ張り、寝室へと入った。 ベッドに下ろした彼の姿は何時も何があっても問題を対処する凛々しい彼とは違い、ぐったりと横になっている。 今、自分の目の前にいる彼は本当に俺が知っている今泉さんだろうか。 そう思えるほど、なんだか頼りない感じがした。 「……ん」 鋭い一重の目は今は閉じられ、長い睫毛が目立っている。すっと通った鼻筋の下にある薄い唇から、甘ったるい声が聞こえてハッとした。 眠るのにネクタイはないだろう。息苦しそうだったから、ネクタイを解いたのがいけなかった。 あらわになった鎖骨に、俺の身体が反応し、気が付けば、俺は今泉さんを抱いていた。 (なんでこんなこと……) 動揺を隠せない俺は、最奥にたっぷりと注ぎ込んだ迸りを痕跡が残らないよう、できるだけ今泉さんの身体を清め、衣服を整えてやると、急いでその場を後にした。 ――……。 「柾木、この文句がおかしい。今日中に直せ」 翌日。昨夜はあんなに乱れていた今泉さんにその面影はなく、俺は何時ものようにたっぷり絞られていた。 ああ、イライラするっ!! 今朝、目覚めてすぐ、今泉さんは尻に違和感を覚えなかったのだろうか。 俺があれだけ中を貫いたのに……。 毅然とした態度は相変わらずでムカつく。 まあ、昨日はあんなに酔い潰れていたし、今泉さんは意識が途切れている間に、まさか俺に抱かれたという事実は知らないだろう。 対する俺は、もうおかしいっていうほど、今泉さんを意識しまくっている。 抱いた時の、しっとりとした肌触りとか、艶のあるくぐもった声とか。俺を締めつける、襞の感触とか――。 いっそのこと俺が抱いたと言ってやろうか。そうしたら、いったいどんな反応を見せるのだろうか。 ……怒り狂うのは間違いないな。 俺ばっかり意識して、気にくわない。 夕方。ブラインドの隙間を縫って、紫がかった橙色の夕日が差し込むオフィス。 定時の時刻を過ぎてもまだ帰宅することを許されず、俺は今泉さんと向かい合い、文章の作成をしていた。 「できました」 これで何度目になるだろうか。なかなか頷いてくれない今泉さんの前に行き、出来上がったばかりのものを見せた。 「今朝は……何故、帰った?」 「えっ?」 てっきりまだお小言が降ってくるのだと思ったから、突然意図していないことを問われて驚いた。 今朝……? って、まさか。酔い潰れていた今泉さんを家まで送った時のこと? 恐る恐る顔を上げれば、今泉さんは俺がさっき作ったばかりの資料を見つめたまま、動かない。 今泉さんは酒に酔いつぶれ、俺に抱かれたのも覚えていないと思ったのに……まさか、違うのか? 「今泉さん?」 俺は彼が今どういう表情で俺に問いかけているのか知りたくて、俯けた顔を覗き込めば、頬は朱に染まり、目には涙を浮かべていた。 なんでそんな顔をするんだろう。 というか、今泉さんがそういう顔をするなんてすっごく意外なんですけどっ!? 「今泉さん? もしかして、俺のことが好きなんですか?」 訊ねると、彼の耳まで赤くなった。 「ち、違うっ!」 彼は肘で口元を隠し、必死に否定する。 いや、いやいやいやいや。違うって否定されても、声は上ずってるし、明らかに動揺してるっぽいよ? 目の前にいる彼は本当に、あのエリート社員のクールで口うるさい先輩なのか。 別人のようだ。 もしかして、必要以上に俺に目をつけていたのって……。 今泉さんって、ツン……デレ? 昨日抱いたから俺の目がおかしくなったのだろうか。何時も強面な彼が可愛く見えてくる。 ああ、もうそれでもいいや。 そんな些細なこと、もう構えやしない。 俺は、目の前で固まっている今泉さんの腕を引っ張り、ズボンの上から尻を撫でた。 「うわっ、えっ、ちょっ、まっ!!」 「待てない。可愛い今泉さんが悪いんです!」 「んっ」 「昨日、俺がここの中に挿入(い)れたこと、覚えているんですね。孔、ヒクついてる」 指を挿し込めば、従順に開いていく。 彼の腰に巻き付いているベルトを緩め、俺は自分の指を舐めるとズボンと下着をくぐり抜け、後ろの窄まりを直に触れた。 濡れた音と一緒に俺の指が挿し入っていく。 中にある、今泉さんが昨日感じていた凝りを擦れば、彼の身体がビクンと跳ねた。 「あっ!」 「誠史朗さん、誠史朗さんって呼んで良いですか?」 「んっ、っふ、あっ!! もう、呼んでるだろっ!?」 名前で呼ぶことを許され、嬉しくて、凝りを弄る指を二本に増やし、孔の中を掻き乱す。 「うっ、やああっ、そこっ、っひぐっ!!」 指を動かすたびに嬌声が放たれる。 俺の腰にしがみつき、俺を見上げる彼が可愛い。 薄い唇からは唾液が滴り落ち、肌を伝っている。 その姿が妖艶で、我慢できない。 「誠史朗さん、俺を貴方の中で可愛がってください」 俺は誠史朗さんの身体をオフィスデスクの上に押し倒した。 彼の下着ごとズボンを膝まで引きずり下ろし、あらわになる孔。 俺もまた自らの陰茎を取り出すと、太い楔で孔を穿(うが)つ。 「っひ、おっき、あああっ!!」 誠史朗さんの中は焼けるように熱い。俺の楔が蕩けそうだ。 俺の楔で彼の襞を広げ、亀頭を凝りに当てる。 「やっ、イぐっ、イぐぅううっ!!」 何度も擦れば、キュウキュウに締めつけてくる。嬌声と共に、淫らな水音がオフィス内に響く。 「誠史朗さん、俺のことも千賀哉って呼んでください」 「ち、かや……ちかやっ!!」 誠史朗さんは俺の名を途切れ途切れで呼ぶと、薄い唇を俺の口に押しつけ、噛みつくような口づけを寄越した。 ああ、やばい。鬼のようだった先輩が、今はとても従順な恋人に見える。 「誠史朗さん、可愛いっ!!」 俺はひと息に誠史朗さんの最奥を貫いた。 「可愛? っひっぐ、ああああっ!!」 達する彼に続き、俺も彼の中でたっぷり注ぐ。 その日から、苦手だった先輩の印象は大きく変わり、今泉さんとの距離は……多分、縮まったと思う。 断言できないのは、やっぱり彼は俺を目の敵にしているからだ。 だけど二人きりになった時は……覚えてろよ。うんと鳴かしてやるっ!! **END** |