れんやのたんぺんしゅ〜★
星に捕まった翡翠 ※r18





chapter:秘めた想いはやがて星に届き……








「いやだ、穴掘り作業なんてまっぴらだ。僕は汚れたくない」

 朝食を終え、仕事の支度をする、恋人のキースの背後に仁王立ちをした。


 翡翠の目は怒りに変わっている。華奢な肩を上下させ、大声で告げた。

 朝焼けの太陽が、極め細かいブロンドの髪を照らす。陶器のような白い肌には、夜毎抱いている、キースの愛の痕が所々に散らばっている。

 それがいっそう艶めかしく、彼を魅せる。



「そうか、だったらここにいろ」


 反発するレイに、しかしキースはレイよりもずっと大人だった。彼は怒れるレイに、にっこり微笑むと、優しく頭を撫でる。

 キースは相変わらず美しい。象牙色の肌に、高い身長。鷹のように鋭い目は、微笑めばずっと優しくなる。すっと通った鼻筋の下にある薄い唇。

 キースの美貌は常にレイを悩ませるのだ。



 キースは、国にとって唯一無二の存在で、神に通じることのできる有能な星読みとしてだけではなく、頭も切れるし冷静沈着で心を乱すこともない、ましてや情に流されることなど有りもしない。

 ――ほんの数ヶ月前までは、だが。

 冷静沈着頭脳明晰な男はどこへやら、当初とはすっかり変貌を遂げ、腑抜(ふぬ)けになっていた。

 その理由は、彼の恋人、レイにある。

 レイは、神通力をもって、神に人びとの意志を伝えることのできる神の子で、星読みに呼ばれてこの地に降りた。

 神に言霊を伝えるための行為の最中、キースに愛を告げられ、レイは恋に落ちた。


 そのキースは、最近やたらとレイに甘い。


 ちやほやされるのは誰だって気分が良い。しかしそれは初めだけだ。ここ最近は、少しも怒らないキースに対して少しばかり不安感を抱いていた。

 レイはキースが考えた、『水路計画』を汚いと言い、馬鹿にしたのだ。怒って当然である。

 しかし、彼はただ優しく微笑むばかりだ。

 まるで執着しないと言っているかのようではないか。


「っつ!!」

(なんで怒らないんだよ!! いつもそうだ。僕が口にすることで怒ったことなんて一度もない!!)

 不安が募るばかりのレイは、そうして深夜、キースに抱かれた後、気怠い身体を起こし、寝台から抜け出る。


「ほんと、馬鹿げてる!!」


 ひとりごとを呟き、静寂の中に吐き捨てると、作業場からスコップを取り出し、杭が打たれた場所を辿る。

 行き先は、キースが計画した水路作りの作業場だ。

 レイは、汚れるのが嫌だとそう口にする反面、こうして夜、こっそり寝台を抜け出し、ひとりで水路作りのため穴掘りに出かけるのだった。

 ではなぜ、手伝わないと言ったレイがこうして作業に参加するのかと言うと、すべては恥ずかしいからだ。

 神の子が肉体労働など前代未聞だ。天界にいた頃は考えたことなんてない。


 しかし、もうレイは神通力を失った。天界の住人ではない。けれども彼としては、プライドというものがある。

 神の子としての神々しい生き様を捨て去ることが今はまだできない。


 けれども、大切な人びとがこうして水路を作っていることもたしかだ。

 レイとしては、自分の神通力が消えたことで、しなくてもいい作業を人びとに虐げてしまっていることへの罪悪感もある。

 それと、純粋に助けたいという気持ちも、だ。


 だからレイはこうして人知れずスコップを持ち、夜な夜な作業を続けていた。


 そんな中、木の陰に隠れて、なにやらブツブツとひとりごとを繰り返すレイを見つめる人影がふたつあった。


 チュニックに身を包む長身な彼は、レイをこの世に繋ぎ止めた、恋人のキースだ。手には長剣を持っている。


 そしてもうひとり、彼はキースの従者で、銀の鎧を身に纏い、レイピアを持ち、周囲を警戒していた。


 実はキース。レイが夜な夜な寝台を抜け出していることを知っていたのだ。



「良いんですか? 好きにさせても。この一帯はまだ整備が行き届いていない危険地域ですよ? 賊でも出れば、見目麗しいレイ様は真っ先に奴らの餌食になりますよ?」


「レイがそうしたいんだ、できるだけ尊重させてあげたい。それに、俺はレイをみすみす賊共に渡す気もない。見つければすぐに蹴散らす」


 キースは闇の方へと鋭い目を光らせ、そう言った。




「貴方は本当に……」

「俺の恋人は可愛いだろう?」


 誇らしげに言うキースに、従者は大きなため息をついた。

 そこに嘗(かつ)ての眉ひとつ動かさない、冷静沈着で有名な星読み様はもういない。


「貴方の溺愛っぷりは、隣国まで広まってますよ」

「そうなのか?」


「ええ」

 キースの問いに、従者は迷いもなく深く頷いた。


 見上げれば、闇夜には、旅人が迷うことのないようにと神が飾った道しるべの星が点々と輝き、ダイヤモンドのように散らばっている。



 こうしてキースが常にレイを見守っていることを、まだレイ本人は知らない。



 **END**


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