chapter:魔法少女現る! 「母さん! もう、なんで起こしてくれなかったんだよっ!!」 オレの名前は七瀬 椿姫(ななせ つばき)。性別はもちろん男だ。女みたいな名前だって言うなよ? これでも結構気にしてるんだ。 オレの名前を付けたのは母さんだ。椿姫っていう名前にした理由は、白い肌に赤い唇をして、可愛かったからだって。 でも、オレ、白い肌なんて嫌い。サッカーしまくって日に焼けれると思ったのに……なんなんだよもう!! 神様って不公平!! どんなに太陽の下にいても、相変わらず肌は白いまんま。焼けたと思っても、皮膚が赤くなってそれで終わり。最悪だろ? そんなオレには昼と夜のふたつの顔がある。 太陽が昇っている時間の職業は学生で、若葉学園二年。 成績は……まあ、普通? 運動神経はかなり良い方だと思う。五段階の成績は常に四をもらってるしな。 だけど問題なのは、もうひとつの方。オレの、夜の顔。 実はオレ、魔法男子なんだ。 そう!! 女の子が好きな、膝上のフリフリスカートにどこぞのコスプレですか的なレースばっかりが目立つ桃色のワンピースを身に着け、金色に輝く、先端に星形の飾りがくっついているファンシーなステッキを持ち、魔法を使って敵を倒す、世界平和のために戦うアレだ! オレは、『それ』になってしまった。 「七瀬様、お急ぎください! 学校が始まります!」 オレの前を移動して急かすのはポポル。親指くらいの小さな身体をしていて、背中にはトンボのような透明で淡く輝く羽根がある。彼は妖精で、魔力を持つ者しか見えない。何を隠そう。このポポルがオレを魔法男子の道へと走らせた張本人だ。 ポポルは、『ゼレンティーテ』とかいう国からやって来たらしい。彼の使命は、一年前、いつまでも美しい王妃様を妬んだ魔女が、王妃様が何よりも大切にしている宝――つまりは王子を攫(さら)い、この人間界に隠したらしい。 それで隠された王子をポポルが探しにやって来たんだ。ようやく時空を越えて地球に辿り着いたのも束の間、魔女の使い魔であるカラスに追われ、瀕死になったところ、たまたまオレが通りかかり、ポポルはオレに魔法を与えた。 あとは引きずり込まれるまま、オレはこうして魔法男子に成り下がったっていうわけだ。 王子様捜しの手伝いがこうしてはじまり、魔女からの使い魔たちと戦って、今こんな状況。 最近はテレビにも魔法少女として活動しているオレの姿が映っているけど、今のところ正体はバレていないみたい。 巷では、変身したオレのことを、『謎の美少女魔法使い』とか言っている。 美少女じゃねえし。第一、オレ、男なのに……。 そりゃ、背は年頃男子よりも低いよ。いまだに百六十だよ。 でも普通、わかるだろ? シルエットとかでさあ!! まあ、コスチュームがすっげぇフリフリだし、体格とか隠れてるけどさ……。 いっそのこと男だって公表してやろうか。 いやいや待て。男だって知れたらどうなるんだ? ただのコスプレ好きな変態じゃねぇか。 バレたら自決ものだな、きっと。うん。 考えるのも嫌なんだけど、なってしまったものは仕方がない。 それでオレは昨夜も深夜遅くまで、王子探しをしていたんだ。 考えるのも嫌なんだけど、なってしまったものは仕方がない。 こうなったらとことんまでやってやる! 開き直って学校の門をくぐったのは予鈴が鳴った直後だった。ポポルとは、とりあえず学校の門でお別れだ。 「いってらっしゃい」 小さな腕を振って、オレを見送ってくれる。 オレもポポルに小さく手を振って、駆け足で移動する。 「セーフ!!」 二階にあるオレのクラス、二年A組までの階段を一気に駆け上がり、滑り込むように席に着いた。 「また遅刻?」 そう言ってにっこり微笑むコイツはオレの前の席の、真城 周(ましろ あまね)。彼はこの学園のアイドル的な存在で、すっごく人気がある。 というのも、二年にして生徒会長に選ばれたっていうのと、外国人さながらの容姿。百八十はある高い身長に長い手足。茶色い癖毛なオレとは違って色素の薄い、肩までのサラサラな髪。王子っていう言葉がしっくりくる、すっげぇ美男子なんだ。 この若葉学園は男子校で、女子がいない。ということはつまり、同性同士のカップルも当然のようにあるわけで……。 入学して当初は考えもしなかったこの恋愛事情は、今ではすっかり慣れてしまった。 そして実はオレも、同性の真城に好意を持っていたりする。まあ、誰にも言えないし秘密だけどな。 だって真城は、がさつなオレなんかとは違って美形だから、学園の外にでも出れば、たちまち女子が言い寄ってくるから……。 だから無謀な告白はしないんだ。 「ああ、うん。ゲームしすぎちゃって」 まさか魔女っ子になって王子探しをしていたなんて言えるわけもなく、嘯(うそぶ)くオレ。 知られたら、きっと軽蔑される。 「そうなの? でも、せっかく綺麗な肌をしているんだから、もう少し早く寝た方がいいよ? 今でも十分可愛いけれど」 「えっ?」 綺麗な肌? 真城からおかしな言葉を聞いた気がする。 ドキッって胸が高鳴った。 「オレ、男だし、肌綺麗とか可愛いとか言われても嬉しくない」 わ〜、オレのバカバカバカ!! なんでありがとうって言えないんだよっ!! しかも、恥ずかしくてそっぽを向いてしまったし! ああでもでも、すごく顔が熱いから、きっと顔は真っ赤だ。顔を見られたら、真城への恋心を勘づかれるかもしれない! 「そうか、そうだよね、ごめんね」 真城がすっごく申し訳なさそうに謝ってくる。 ……ごめん、オレ。素直じゃなくて。 他の奴に肌が綺麗だって褒められても嬉しくないけど、好きな人に言われるのは嬉しい。でも、それを口にすることができなくて、心の中で謝る。 「あ、五教科分のノート。今日も写す? 授業中も寝るんでしょう?」 真城は寝不足のオレを察してくれている。ノートを貸してくれる彼は本当に王子様だ。成績優秀で美男子で、しかも優しいって、どこまでも完璧じゃねぇか! 彼がいなかったら、オレ、今頃テストの点数が恐ろしいことになっていただろうし。 「サンキュ。帰りに写させて?」 「いいけど、持って帰らなくていいの?」 持って帰ったりなんかしたら、真城との一緒の時間がなくなっちまう。 だからオレはコクンと頷いた。 あ、そうか。真城は生徒会があるんだ。今さら気付くオレは、本当に自分のことしか考えてない。 「あ、そか、生徒会。迷惑なら持って帰る……」 真城の邪魔かもしれない。 そう思ったら、胸がズキズキ痛む。 「そういう意味じゃないんだ。今の時期、行事は何もないから生徒会は忙しくないよ」 真城の真意を探るため、顔を上げれば、彼はにっこり微笑んでいた。 うう笑顔が眩しい。王子スマイル全開だ。 ――その日の放課後。結局、真城の言葉に甘えて、誰もいなくなった空間でノートを写す。 オレンジ色に染まった教室は、やっぱりとても綺麗で、夕日に照らされた真城の髪が輝いて見える。 やっぱ、綺麗だよな。 そんなことを考えながら、達筆な字で書かれたノートを写す。 その時だった。ふいに窓から入り込む夕日が消え、教室が薄闇へと変わる。 「七瀬 椿姫。見ぃつけた!」 窓に立っていたのは、年の頃ならオレと同じくらい。短髪に黒髪。身長は真城と同じくらい。奴の名は……。 「お前は、ディガーッ!!」 奴はゼレンティーテに棲む、魔女の手下だ。 「お久しぶりです、王子。と言っても、御方に記憶を消されているからお覚えにはなられていらっしゃらないでしょうが」 何やら意味深な言葉を告げると、指を回した。真城を漆黒の輪のようなもので囲み、その輪は収縮して、あっという間に真城を拘束した。 漆黒の輪に拘束された真城から、骨が砕かれるような音が聞こえる。 「くっそ、真城を離せっ!!」 ディガーは相当な魔力の使い手だ。いくら運動神経が良いからと言って、勝てる相手じゃない。 あの姿になるなんて恥ずかしい。 しかも、真城の――好きな人の前で魔女っ子になるんだ。気持ち悪がられるのは必至だ。 変身なんて死ぬほど嫌だけど、真城の命の方が大切だ。 背に腹は代えられないよな。 オレは勇気を振り絞り、懐からリップスッティックくらいのファンシーなステッキを取り出した。 「メタモルフォーゼ!」 変身の合図になる言葉を口にすると、無数に出現した光の粒がオレの身体を包み込み、薄桃色をしたロリータファッションの膝上ミニスカート姿を披露した。 「真城を返せ!!」 ファンシーなステッキは、オレが変身を遂げると三十センチくらいの長さに変化する。オレはディガーに向けてステッキの先端に付いている星の部分を突きつけた。 「やはり、あの魔法使いはお前だったな」 ディガーは目を細め、愉快そうに笑う。 「事と次第によっては返してあげなくもない。俺のものになれ」 「ふざけんなっ!!」 ステッキを振り、目の前の敵に攻撃する。 相手も負けてはいない。 ディガーは魔力を練り、剣を生成した。 オレのステッキとディガーの剣が何度もぶつかり合う。 「うん、良い眺め」 言われて気が付いたのは、前が破けていたことだ。 「ピンク色の乳首、可愛いね」 しまったと思った時にはもう遅い。 オレのステッキは奪われていた。 「俺はね、影を操れる」 そう言うと、ディガーは触りもしていないのに、勝手にオレの身体が宙に浮いた。 見えない何かに拘束される。 「はなせっ!! おろせっ!!」 オレのすぐ目の前にはディガーがニタリといやな笑みを浮かべている。 「女の子の格好をしているけど、本当に男の子なのかな?」 何処からか風が生まれ、スカートの裾がめくれた。 見えるのは、ボクサーパンツだ。 「外見は女の子なんだから。男物の下着はいただけないねぇ」 ディガーは眉間に皺を作り、気に入らないと言うと、オレのボクサーパンツを抜き取った。 両足が開かされ、つま先が天井に向けた体勢を取らされる。あらわになるのは、オレ自身と尻だ。 「やっ!!」 「ふうん、残念、やはり男か。でも、いくら男だからって、セックスができないわけじゃない。後ろの孔が使えるよね?」 口角が上がったその笑みは、嫌悪感しかない。 オレに触れ、根元から先端にかけて扱いてくる。 他人に自分のものを扱かれ、感じたことのない痺れと疼きがオレの身体を駆け巡る。 いやらしい水音が、ディガーの手がオレを扱くたびに聞こえはじめる。 先端からは滑った液が溢れ出していた。 「っふ、やだあっ、さわるな……」 オレの目からは、抵抗も出来ず、ただされるがままに好きでもない奴に触れられて情けないのと、オレ自身が触られて気持ちが良いのとが入り交じった涙が溢れてくる。 「あ〜あ、涙目になっちゃって、可愛い。液は濃いね、自分ではあんまりしないの?」 上がっている口角から赤い舌が出ると、オレの液を美味そうに舐めた。 そうかと思ったら、オレのを弄っていたディガーの指が、次は尻の孔に入ってきた。 「っふ、ああっ! やめっ、いやぁあっ!!」 引き裂かれるような痛みがオレを襲う。 「中は狭いね、それにすごく熱い」 「いやっ、いたっ! ぬけっ、指、抜いてっ!!」 首を振り、拒絶するのに言うことを聞いてくれない。 「ああ、そうか。初めてなんだっけ。前も弄ってあげないとね」 ディガーはもう片方の手で、ふたたびオレを弄る。 「っひ、うっ、ああっ!!」 痛い思いから解放されたくて、無意識に気持ちが良いと思う方を選び、喘いでしまう。 「いいね、喘ぎ声。可愛い。あ、そうそう、君にプレゼントがあるんだ。気に入ってくれるかな?」 「なにっ!? っひ!!」 指よりももう少し太い、プラスチックの何かがオレの孔に入ってくる。 これって、ローター? 気が付いた時にはもう遅い。オレの中にある、一点までローターが辿り着いた。 「前立腺。ここ、男でも感じる場所なんだよね」 「っひ!!」 小刻みに中を刺激され、もう為す術はない。 「やあっ、やめっ、ひっぐ!」 「涙を流す顔は可愛い、実に可愛らしい。乳首も吸ってあげようね」 ザラついた舌の表面がオレの剥き出しになっている乳首を舐める。 「可愛い、可愛い。ほら、ツンと尖ってきた」 「っひ!」 歯を剥き出して、乳首を甘噛みしてくる。 吸い上げられる音が気持ち悪い。舌の感触が嫌だ。 それなのに、オレの身体がおかしい。オレ自身は先走りを流し、さっきよりも膨れているんだ。 「離せ! いやああっ」 真城の前で乱れたくない。 好きな人じゃないのに、弄られたくない。 それなのに……。 気持ちとは裏腹に、オレの腰は淫らに揺れる。 「あっ、あんっ! ましろ、見ないでっ、っひ、やだぁああ……」 オレの口から飛び出るのは、喘ぎ声と、泣き声だ。 「七瀬に触るな!!」 真城の声に合わせてオレの身体が解放された。 見上げれば、真城はディガーが作り出した漆黒の輪からいつの間にか抜け出し、どこから取ってきたのか、金色に輝く剣を持っていた。 ディガーと互角に渡り合っている。 剣は互いに何度もぶつかり合い、その度に、鋭い金属音がする。 「なっ! 魔力? 剣を生成したのか! お前、記憶が戻ったのか?」 「だったらどうする?」 「……チッ。今は逃げるとしよう。また来るよ、今度こそは君を奪いに、ね。待っていて、俺の可愛い椿姫」 そう言うと、ディガーは姿を消した。 後に残されたオレは、もう為す術なく、床の上で乱れ、足掻く。 「七瀬! 大丈夫?」 「っ、ああっ、ローター抜いて、ああっ!!」 震える身体を真城に擦り寄せ、お願いすると、真城はローターを抜き取ってくれた。 「七瀬!」 ローターは真城が抜いてくれた。だからもうオレを戒めるものは何もない――ハズなのに。 なんで? オレの身体がおかしい。 すごく熱いんだ。 「なんでっ、やあああっ!」 「快楽が抜けないんだ。どうしよう」 狼狽(うろた)えている真城は、すっごくらしくない。 だけどオレはそのことに構っている暇はなくて、両足を思いきり開いて自分の指で孔をこじ開け、中にある襞を見せた。 「おねが、真城。オレを抱いてっ!」 真城が唾を飲み込む音がした。 「すごく痛いかもしれない」 「いいからっ! おねがいっ!!」 好きな人ならいい。 オレを抱いて。ディガーの感触を忘れさせて。 「お願いっ!!」 もう一回強請ってみると、オレの中にすぐ、真城が侵入してきた。 真城の太い男根が、襞を掻き分け、オレを貫く。 「っつ!」 「っは、あああああんっ、きもち、もっと突いてぇええっ!!」 オレは腰を揺らし、真城を欲した。 この行為の最後。記憶に残っているのは、真城の白濁を体内に注がれたっていうところまでだ。 「王子! ご無事で何よりです!! 記憶も戻られていらっしゃるのですね?」 「うん、隠していてごめんね。この世界の両親に迷惑をかけたくなくて……。実は魔力も以前よりも使いこなせるようになったんだ」 「それなら話は早い。ゼレンティーテにお戻りいただけませんか?」 ――ここは何処だろう。ポポルの声がする。 「ごめんね、俺はこの世界で七瀬と生きていきたいんだ。父さんと母さんには、何れ正式な文章を送って知らせるつもり――」 真城がオレの名を呼んだ? 「ん、ましろ……?」 ここは何処? オレ、どうしたんだっけ? なんでだろう。身体がすげぇ怠い。 閉ざした目を開けようとすれば、思うように目が開かない。 「疲れただろう? もう少し眠るといい」 「ん……」 優しい声に導かれ、オレはふたたび静かに瞼を閉じた。 **END** |