れんやのたんぺんしゅ〜★
女装して愛の逃避行※r18





chapter:年上彼女の秘密 side:流星







 俺の名前は和歌 流星(わか りゅうせい)。

 大学二年の俺には釣り合いが取れないほど、大人な彼女がいる。

 名前は雪見 絃さん。長い睫毛と二重の目が印象的な人だ。彼女はきっと、清楚で可憐な服装が好きなんだと思う。レースのついたワンピースとか、ロングスカートをいつも身に纏っている。

 絃さんは女性にしては身長が高い方で、モデルみたいなすらっとした体型をしている。すごく綺麗で、女性にも男性にも振り向かれるし、一緒に喫茶店に入った時だって、俺が前に座っているのにもかかわらず、いつも男が言い寄ってくる。

 まあ、たしかに。小説家っていう立派な仕事をしている絃さんにとって、まだ自立していない俺って子供だし、相手にされないかもしれない。

 だけどさあ、俺って、そんなに男として魅力ないのかなあ。

 絃さんの傍にいたくて、他の男に取られたくなくて、絃さんに告白したのは、出会ってから約二ヶ月後のこと。

 それで半年が過ぎようとしているのにもかかわらず、身体の関係は愚か、キスだってさせてもらえない。お預け状態だ。

 もしかしなくても、俺は絃さんに遊ばれているだけなのかもしれない。

 そうだよね、美人で大人な絃さんだもん。他にもっと格好いい男くらいいるよね。

 俺なんかと一緒にいられるような女性(ひと)じゃない。

 そんなことはわかっている。だけど、やっぱり別れたくないよ。



 月曜日。一限目しか講義を入れていなかった今日は休講になり、何もすることがなくて、大好きすぎる絃さんのことをずっと考えている俺は、うんうん、唸りながらベッドの上で寝そべっていると、手元にあったスマートフォンが震えた。

 着信画面を見れば、絃さんの名前があった。

 もしかして、もうお別れされるのかな。

 怖いけど、出なければ余計に嫌われてしまうかも。

 ヘタレな俺は通話ボタンを押した。


「もしもし?」

 震える声で電話に出ると、ハスキーな彼女の声が耳孔に入る。

「流星? 今から会える? 少し、話したいことがあるんだ」


 ――ああ、やっぱりもうお別れなんだ。

 俺は目を閉ざし、絶望を感じながら、ゆっくりと頷いた。

 胸がズキズキ痛む。


「わかりました。すぐに用意します。待ち合わせ場所はいつもの喫茶店で良いですか?」

 絃さんの呼び出しに応じた俺は、電話を切り、喫茶店に向かった。


 絶望という感情を噛みしめて――。



「ごめんね、行こうか」

 言われるままに、導かれるままに向かった先は、なんと、絃さんの家。

 絃さんはやっぱりすごい人なんだ。家は一軒家で大きな庭がある。しかも寝室と仕事部屋が別にあって、あと二、三部屋の空き部屋がまである。

 あれ? ちょっと待って? 家に呼ばれたってことは、もしかしてお別れじゃない?

 彼女はまだ、俺とお付き合いをしてくれようとしている?


 うっすらと期待をしながら、居間に通され、絃さんを待つこと三分くらい。

 襖を開けて、隣の部屋からやって来たのは――男物の服を着た、絃さんだった。

 彼女は俺の前までやって来ると、巻いてあった長い髪を頭から抜き取る。

 そこに現れたのは、艶やかな短い黒髪の、男の人。

「えっ?」

 どういうこと? なんで絃さん、男装してるの?

 意味がわからず、口をぽかんと開けて阿呆面を披露していると、絃さんは薄い唇を開いた。

「俺は、本当は男なんだ。女だと思っていた?」

「えっ?」

 男? 女性じゃない?

 どういうこと?

 頭が追い着かず、瞬きばかりを繰り返す。

 ただただコクンと頷いた。

「女じゃなきゃ嫌い? 俺とは付き合えない?」

 そりゃそうでしょう。本来、恋愛とは異性とするものだ。同性となんて有り得ない。

 だけど、頷くことができないんだ。

 だって絃さん、すっごく悲しそう。


 弧を描く唇はいつも自信たっぷりで、何をしていても絵になって、綺麗で可憐で――そんな彼女が好きになったのは事実だ。

 でも何故だろう。今の方がずっと人間らしい気がする。

 俺はただ、目の前に突きつけられた事実に唖然としていると、絃さんの眉間に深い皺が刻まれていった。

 悲しそうに微笑んでいる。

 そんな泣きそうな顔をしないでほしい。

 絃さんにはずっと不敵な笑みを浮かべて、笑っていてほしいんだ。

 俺と視線を重ねる絃さんの瞳が揺らいでいる。

 絃さん……俺は……。



「嫌いになれたら、今、こんなに悩んでません。惚れた弱みってやつでしょうか?」


 貴方が好きなんだ。

 そう思うと、絃さんのことをすんなりと受け入れることができる。


 長い手が伸びてくる。

 くすぐったくて目を閉ざせば、俺の唇が塞がれた。

 ああ、そうか。絃さんがキスさえも許してくれなかったのは、きっとこのことがあったからだ。


 俺も手を伸ばし、短い黒髪に指を差し込む。芯の通った、すごく綺麗な髪だ。


 好きだよ、絃さん。たとえ貴方がどんな姿をしていても。俺はもう、貴方の虜だ。



 **END**


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