chapter:unsociably 「貴方は何故、いつも私の授業だけに出てくれないんですか?」 放課後、オレンジ色の夕日に包まれた教室で、栄鞘(えいしょう)高校一年三組担当の英語教師である私、一ノ瀬 応輔(いちのせ おうすけ)は、私よりもほんの少し背の低い彼と向かい合う。 黒い髪は襟足よりも短く、時折、窓から吹く風に遊ばれる。肌はやや褐色がかっていて日に焼けている。実際、運動神経も良い。彼はけっして華奢な体つきではない。けれどその姿が、何故かとても儚く見える。 「つまんねぇから。お前みたいなウジウジした奴、大嫌い」 彼の名前は桜庭 貴文(さくらば たかふみ)。気が強そうな一重の目はそっぽを向き、目の前にいる私を見ようともしない。 彼のツンケンしたこの態度はいつものことで、彼は何故か、私だけに冷たい。 彼は教頭先生の息子さんで成績は常に優を取っている。影響力が強く、リーダー的存在だ。おかげで先生は皆、彼を恐れ、気に入られようと努力を欠かさない。 そして私も……そうだった。 過去形なのは、私は次期にこの学校を辞めさせられるからだ。今日、学校長からお達しが来た。一週間経ってもこの調子なら、仕方がないから、と。このままだと生徒との溝ができてしまうからと……。 何故、彼は私だけにこのような態度を取るのだろう。 私は一体、彼に何をしたのだろう。 考えても、まったく結論が出てこない。それはそうだろう。だって、私は彼と話したことは愚か、こうして向き合ったこともないのだから。 彼の、この非社交的な態度は慣れている。何時ものことだ。しかし、彼の態度が、今の私の癪に触った。 「聞き分けがない子ですね。繋ぎ止めてしまいましょうか」 ネクタイを引き抜き、彼の腕を後ろで拘束した。 「っつ! 何をするんだっ!! 父さんに言うぞ?」 まさか私がこういう態度に出るとは思わなかったのか。突然の拘束に怯えた表情のまま、唇を動かした。 今さらだ。 「言えばいい。どのみち、私は近々この学校を追い出されますから」 「えっ?」 彼の身体を机に押しつけ、見下ろせば、驚いた表情でこちらを見つめ返してきた。 彼もまさか、自分のせいで私が首になるとは思ってもいないだろう。 「その前に少しでも、『いい思い』というものをさせていただきます」 にっこり微笑み、カッターシャツのボタンを一気に外せば、均衡のとれた引き締まった上半身が見えた。 私よりもずっとたくましい、年相応の瑞々しい身体だ。 そして、胸にあるのは、可愛らしい桜色の小さな突起。 視線が乳首を捕らえた瞬間、私はもう何も考えられなくなった。乳首に触れれば、そこはツンと突き出る。 可愛くて、親指の腹でクリクリと弄ってやれば、硬く尖って反応してくれる。 しっとりと濡れたような肌触りがまた、とても気持ちが良い。 舌を這わせ、または甘噛みして可愛らしい乳首を味わう。ほんのりと香る甘い香りは彼の肌からだろうか。 一方の乳首を堪能した私は、もう一方にも取りかかる。 私が舌を這わせれば這わせた分だけ、肌は赤みを増している。ああ、なんと可愛いんだろう。 「あっ! やめっ!!」 首を横に振り、イヤイヤをする彼の目には涙が溜まっている。何時もの強気な彼では考えられない表情だ。恐怖と、それから羞恥の色が交ざっている。 頬は紅色に染まり、薄い唇は小刻みに震えている。まるで小動物のようだ。 「厭だと言うわりには、此処、膨れてますね」 下半身に目をやれば、乳首を触られて感じたのか、身をもたげているのが見えた。 ズボンの上から指を這わせ、触れれば、彼の一物は大きく震えた。 「あっ、っひ、ぅ、ああっ!!」 女の子のような可愛らしい声が私の耳孔を攻める。 「ここも、可愛がって差し上げましょうね」 ジッパーを下ろし、足を肩に掛ける。そうして見えるのは、赤く染まった秘部だ。 彼のひくついている後孔に舌を這わせると、襞がひくついた。 彼の一物は脈打ち、先端からは先走りが流れている。 彼のそそり立つ屹立を触りながら、後孔に指を突っ込んだ。 「いたっ、痛いっ!!」 痛みを訴える彼に合わせて、私の指を貪る後孔が締めつける。 どうやら本当に痛いらしい。 だが、彼は気付いているだろうか。悲痛な叫び声の合間に、甘い嬌声が入り交じっていることに――。 後孔に突っ込まれる痛みから抜け出そうと、陰茎を擦られていることに集中しようとしている。快楽に意識を向けようとしているのだ。 「っひ、あああっ!!」 ここ、か。 けれども悲痛の声はやがて甘い嬌声に変化した。凝りのあるそこに指が触れたからだ。 私は前立腺を見つけ、執拗に擦ってやれば、彼の屹立からはさらに先走りが流れ出る。私の指は彼のもので濡れそぼっていた。 「ああ、私の手はこんなに汚れてしまいました。舐めてくださいね?」 「っふ、ぐぅ」 彼の口内を私の指で犯す。 淫猥な水音は下からも上からも聞こえてくるからたまらない。 自身の楔で彼を貫きたい。もっと喘ぐ声が聞きたい。 衝動に駆られ、私も自分のジッパーを下ろし、反り上がっている自身を取り出した。 私の唾液で濡れそぼった後孔に、肉棒を挿し込み、一気に貫く。 「やっ! やめっ、っひぐっ!!」 中はとても細く、狭い。けれどそこがまた、気持ちが良い。 「熱いですね、私を捕らえて離さない」 浅い抽挿を繰り返せば、私の先走りが彼の中を潤す。 淫猥な水音が教室内に響く。 「いやっ、やだっ、痛いっ、やあああっ!!」 迷わず中に挿し入れ、最奥へと向かわせていると、彼の悲痛にも似た叫び声が私を我に返らせた。 私はなんということをしてしまったのか。 これでは強姦じゃないか。 「すみません」 泣きじゃくる彼の表情は青ざめ、もはや恐怖しか見えない。 謝ってすむ問題じゃない。 彼の身なりを整え、私は彼から背を向けた。 私はなんて馬鹿だろうか。いい大人が、まだ十五歳の子供に当たって。しかも強姦めいたことをしでかして。 恥ずかしい。こんなだから、私はここを首になるんだ。 もしかすると、彼は私の獣じみた内面を感じたからこそ、突き放した冷たい態度を取ったのかもしれない。 だとすると、彼の行動は間違ってはいない。 ……なんと愚かなことをしたのだろうか。 「……申し訳ありませんでした。訴えてもかまいませんから」 「なんでっ! なんでこんなことをしたんだよっ!!」 「貴方を、ずっと見てました……。何故私の授業には出てくれないのかとか、色々考えて……他の先生に嫉妬してました」 ――そう。そうだ。自分の授業には出ない彼が、他の先生とはとてもにこやかに笑って話していたことが嫌だったんだ。 私は他の先生方に嫉妬していた。だからこそ、彼の態度に傷つき、苛立った。 なんて馬鹿だろうか。 彼の両腕を拘束しているネクタイを解き、解放してやる。 一週間と言わず、明日、辞表を出そう。そうして此処から去ろう。 彼のいない所へ行って……ああ、だけど私は彼に消えない傷を与えてしまった。この代償はどうやったら償えるだろうか。 私は痛む胸を押さえながら、目を閉じた。 「すみません」 最後にもう一度謝り、そのまま教室を去ろうと歩を進めた、その時だ。 「俺っ! 先生のこと、本当は好きだ!」 「えっ?」 今、なんて言った? 彼からかけられた言葉は暴言でもなく、苦言でもない。思わぬ言葉に立ち止まった。 「先生はいつも生徒に分け隔て無く優しいじゃん? 俺だけを見て欲しくて。そしたら、こんなふうにばっくれることしかできなくて……。ごめん、なさい。だから、だから辞めないで!! 俺、ちゃんとするからっ! ちゃんと授業出るからっ!!」 私の背中にしがみつくのは、本当に問題児の彼なのか。 「好き。だから、最後までして。俺を愛してっ! 中途半端は嫌だっ!!」 「桜庭くん……本当に?」 振り返り、訊ねると、顔を真っ赤にさせた涙目の彼がいた。 先ほどまで悲痛な叫び声を上げていた薄い唇が私の唇に触れる。 チュッというリップ音が聞こえた。 ああ、もう天にも昇る気持ちってこういうことだ。 私は彼の手の甲に唇を落とし、今度は優しく、引き締まった身体を倒す。 「あっ、せんせっ、キスして、おねがいっ! んうぅうう……」 交わるのは唇だけではない。彼のすべてを貪る。私の肉棒が奏でる水音と、艶やかな嬌声。 私は彼の中に愛液をたっぷり注ぎ込み、食した。 ――その日、彼は私に抱かれた後、もう授業をすっぽかさないことを約束してくれた。 そして翌日。英語の授業。 「では、授業をはじめます」 約束どおり、桜庭くんが席に着いていた。 にっこり微笑みかけると、彼は顔を赤く染め、俯いてしまった。 おや、これもこれで、なかなか……。 **END** |