chapter:不釣合い 巨大なシェルターはいったい何帖分あるだろう。 ここは研究室になっている。 様々な工具と容器に入った微粒子などが、シェルターの壁に沿うようにして並んでいる棚に所狭しと陳列している。 そこに、俺と彼がいた。 「もう大丈夫だよ? あとはこの制御装置を取り付ければ、瞬間移動装置は完成するから。君は格好いいとこの星でもかなり人気があるし、モテるんだから、彼女でもつくって遊ぶと良い」 細い指が白髪に近い色素の薄い金の前髪が落ちてくるのを払い除け、タレ目の彼がにっこり微笑む。 いつも研究室に隠りきりの彼は、太陽の日差しに当たることが滅多になく、おかげで日焼けすることもない。肌は透き通った白のままだ。 冗談でしょう? 俺は別に年頃の奴らと遊びたいわけじゃない。 女性とか同年代とか、どうだっていい。 好きな人は貴方だ。 体の線が細く、どこか頼りなく見える貴方を、いつの間にか目で追い、気がつけば芽生えていたこの想い。 俺はただ、貴方と同じ時間を共有したい、それだけだ。 なのに彼は俺の気持ちを全然わかってくれない。 「俺、別に遊びたいわけじゃありません」 「ご、ごめんね。不快に思ったなら謝るよ。ただ、君くらいの年齢の子は他の星に行って買い物をしたりするのが楽しいだろうからと――。こんな、『オジサン』相手に一日中研究に付き合うなんて楽しくないと思って……」 苛(いら)ついて視線を逸(そ)らせば、彼は慌てた様子で訂正した。 オジサンって言っても、たかだか八歳違うだけだ。 たいして変わらないじゃないか。 俺の恋心を拒絶する言い訳に聞こえて苛立つ。 「そんなの決めつけです。俺は双羽(そうは)さんのことを一度だって『オジサン』だと思ったこと無いですし、双羽さんと一緒にいるのは同年代の奴らと連んでいるよりもずっと楽しいです」 頼むから俺の気持ちを勝手に決めつけないでほしい。 「ねえ、いい加減自分の気持ちに素直になってください」 「あ、あの……天伍(てんご)くん?」 椅子に腰掛けている双羽さんを追い詰めるように身体を寄せ、逃げられないよう、俺の腕で檻を作る。 目の前にあるのは、焦り顔の彼。 ただでさえタレ目で泣きそうな顔をしているのに、俺の顔を寄せると、さらに泣きそうだ。 だけどそれだけじゃなくて、頬はほんのり朱が混じってもいる。 ……迷えばいい。 双羽さんの百面相は見ていて可愛らしい。 そして俺の気持ちに気づいて。 貴方の心に浮かんでいる俺の気持ちから目を逸らさないで。 「あ、スイカ切ってきますね?」 たしか冷蔵庫にあったはず。 そのことを思い出し、自らの唇を彼の耳孔に近づける。 「好きでしょう?」 耳元で囁けば、彼の両肩がビクンと震えた。 俺がスイカを切り終え、戻る頃には、いったいどういう反応を見せるだろうか。 これから後のことを考えると、口元が緩んでしまう。 さあ、どうやって攻めてやろうか。 **END** |