chapter:愛おしい君 「双羽(そうは)さん、切ってきたよ? スイカ」 にっこり微笑み、スイカを乗せた平皿を両手で掲げると、彼は両手で顔を隠し、何度も研究机に額を打ち付けていた。 「何をしているんですか?」 自傷行為を繰り返す彼の姿に驚いて駆け寄り、何度も額を打ち付けるその振動で落ちないよう、机の片隅に手にしていた平皿を置く。 両手を掴んで彼の動作を止めさせる。 だがやはり顔は俺に向けず、俯いたままだ。 耳は、真っ赤に染まっている。 「双羽さん?」 彼はいったい何を考えているのだろう。 何故、このような行為に陥ったのだろう。 名を呼び、訊(たず)ねてみる。 すると悲鳴のような声が聞こえた。 「っ、きっ!」 き? 「君が悪いんだっ! こんなオジサンをおじょくるからっ!」 「別におじょくってなんかないですけど?」 「嘘だっ! こんなオタクな奴を好きになるわけがないっ! こうやって私が四苦八苦している姿を見て面白がっているだけだろうっ?」 双羽さんはやはり俯いたままだ。大きく頭を振り、大粒の涙を散らす。 年上のその人に向かって、涙を流すその姿も可愛いと思うのはいけないことだろうか。 ……ふ〜ん、俺の本気を見せろといいたいのか。 なるほどね。 いいよ? だったら本気を見せてやる。 後悔しても知らない。 「双羽さん……」 「?」 ふたたび名前を呼び、双羽さんが顔を上げたところで自らの唇で彼の唇を塞いだ。 「っ、んうぅううっ!!」 吐息さえも吸い込むほど強い接吻をすれば、喘ぐような色香を含んだ声が聞こえた。 「俺の本気、理解してくださいました?」 唇を離し、にっこり微笑むと、彼の顔が赤く染まる。 ――ああ、やっぱりぶつけた額が赤くなってるし。 傷になってなくて良かったと思うものの、それでも痛そうなのには変わりない。 唇を寄せ、痛みから解放されるように赤くなった額に幾度となく口づける。 静かな研究室にリップ音だけが響く。 「……っ、あっ、てん、ご、くん……」 目が潤み、俺を見つめる双羽さんの表情が色を纏(まと)っている。 俺を感じてくれているのだろうか。 そんな顔をされると双羽さんが欲しくなる。 「何でしたら、この先にも進みましょうか」 俺はそう言って、双羽さんが着ている白衣の裾を持ち上げる。 下着を通り、背中を撫でる。 ……ああ、やはり、双羽さんの肌はしっとりとしていてとても滑らかだ。 「っは……天伍(てんご)くん……」 「双羽さん……」 俺は耳孔に唇を寄せ、貴方が欲しいと懇願しながら彼の名を呼ぶ。 「っは……天伍くん……好き……好きなんだ……」 俺が双羽さんの名前を耳元で囁いてみせると、消え入りそうな声で彼はそう告(い)ってくれた。 オジサンだからとか、俺の気持ちを拒絶する言い訳はもうさせない。 「スイカよりも美味しそうな貴方を食べてもいい?」 「っは……」 耳朶を甘噛みして訊ねれば、体が小さく跳ねた。 彼の吐き出す息は短く、どこか苦しそうだ。 息が上がっているのは俺を意識しているからだろう。 耳孔を舐めて追い詰める。 「っはぅ……」 もう逃がさないよ、双羽さん。 俺は双羽さんに覆い被さり、もう一度唇を奪う。 今度はさらに深く。逃げられないように……。 **END** |