れんやのたんぺんしゅ〜★
虚偽 ※r18





chapter:虚偽







「空也(くうや)さん、オレ、隣の霞ヶ丘(かすみがおか)高校の2年で、岬 相太(みさき そうた)って言います。駅のホームで貴方を見かけてから、ずっと気になっていました。オレと付き合ってくださいっ!!」


 放課後の裏門。

 人気がない場所で、俺は今、告白されている。

 相手は、顔を伏せていて、よくはからわからないが、そこそこいい方だと思う。

 茶色い髪は地毛なのか、艶やかだ。高い背に、細い体。


 見てのとおり、男が男に告白。


 あまり見ない光景のようにも思えるが、別にないこともない。


 なにせ俺は、肩まである黒髪に、日焼け知らずの白い肌。女子にも見間違われがちな、大きい目に長い睫毛。無駄な筋肉さえない、細い体。

 結構、美人らしいし? だけど大概(たいがい)、相手が選ぶのは俺じゃなくて、空也の方だ。


 ――そう。

 この男は間違いを犯している。

 俺は空也じゃない。

 海也(うみや)だ。

 そして空也は、俺の双子の弟。一卵性双生児だから、外見がとにかく似ている。

 だけど、性格は違う。

 空也はどっちかといえば、かなりおっとりした性格で、柔らかい雰囲気をしている。

 対する俺は、っていうと……。

 腹黒?

 友人曰(いわ)く、きついことを平気で言うらしい。


 岬 相太と名乗る目の前の男は、俺を空也だと思い込んでいる。

 両手を震わせ、ラブレターらしきものを差し出している。

 彼の身長は俺よりも高いが、腰を折っているから、かなり小さくも見える。


 ……こいつ、馬鹿だろ。

 普通、好きな人なら、告白している相手が俺じゃないって気がつくだろ?


 ……腹立つ。

 いつもそうだ。

 同じ顔なのに、空也ばっかり可愛がられて、俺はのけ者。

 だから、意地悪してやろう。


 俺は弟の空也の振りをして、からかってやることに決めた。


「いいよ、付き合ってやる」

「っほ、本当? やった!!」

 あまりの喜びように、良心が痛んだが、実は、空也には彼氏がもうすでにいる。ともすれば、これはコイツのためにもなるだろう。


 俺の中の天使が、「いけない」と囁くが、悪魔の俺は、天使の言葉を聞かずに相太からラブレターを受け取った。


 その日から、俺は、相太の前では空也として、地の俺のまま、付き合うことになった。


「ね、最近、海也楽しそうだね」

 それは、空也からの思わぬセリフだった。



「えっ? そうか?」

「うん。岬さんとお付き合いはじめてからかな? なんか、ものすごく楽しそうだよ? 海也は岬さんが好きなんだね」


 もちろん空也には、相太と俺が付き合っているということは言っていない。

 というか、実は相太は空也が好きで、俺と空也を間違った腹癒せに、空也と偽って付き合っているとか言えるわけがない。


 それでも空也に相太と俺の仲がバレたのは、空也は昔から、周囲を気遣うのがとても上手いからだ。


 彼はそうやって、いつも差し障りなく振る舞う。

 俺にはない、空也の優しさ。


 ……だけどさ。


 はあ?


 空也の口から、なにか聞き捨てならないことを聞いたぞ?

 俺が相太を好き?


 そんなこと、絶対に有り得ないだろう。

 空也は何か勘違いしているだけだ。


 否定したいのに……なんでだろう。

 俺、相太のことを考えるだけで、とても楽しいんだ。

 口角が自然と上がっていくのが、自分でもわかる。


 理由はきっと、相太が、あまりにも純粋だから……。

 彼は、俺の我が儘をたくさん聞いてくれて、ちやほやしてくれるから……。

 まさか、俺が相太を好きになっていくなんて、そんなこと、計算に入れていなかった……。



 ――……。

 ――――…………。



 相太の告白を受けてから1週間目のその日。

 相太と付き合いはじめてからの、遊園地で初めてのデートだ。


 電車で30分。

 少し大きめの遊園地での初デートの待ち合わせは、ゲート前。


 俺よりも背が高い彼は、俺の姿を見るなり、突然泣き出してしまった。


「なに泣いてんの? 17歳にもなってみっともない」

「だって、まさか空也さんが、オレと恋人になってくれて、しかもデートまでしてくれるなんて、なんだか夢のようだから……」

 平気で感情を表に出す相太は、俺にない物をたくさん持っている。


 だからだろうか、相太といるのが楽しいのは……。


 また、新たな、「好き」を発見してしまった。


 ダメだ。

 こいつのペースに巻き込まれてはいけない。

 そう思うのに、俺の良心が限界だった。



「ごめん、俺、実は空也じゃないんだ。兄の、海也の方なんだ」


「――え?」

 いくら相太のことを好きになったとはいえ、彼を騙していたのは事実だ。


 俺が空也じゃないとわかった相太は今、いったいどんな表情をしているのだろう。



 ……彼の心情はきっと、打ちのめされているに違いない。

 騙されたと、俺を恨むだろうか。


 ――怖い。

 嫌われるかと思うと、ものすごく怖い。


 相太の顔、見られない。

 胸がズキズキする。

 苦しくて、吐きそうだ。




「……だから、もう。さようならっ!!」

 俺が海也だと打ち明けたその日。

 俺は、相太との、心待ちにしていたデートを自ら台無しにして、そのまま帰宅した。

 相太はそれ以来、俺の前に姿を現さなくなった。


 ……これで、相太とは終わり。


 俺は、心の中にぽっかりと穴があいたような、そんな寂しさを覚え、毎日を過ごしていた。




 そして今は、相太と会わなくなってから3日目の放課後。

 俺は裏門にいる。

 そして、目の前には……腰を折り、地面を見つめる男がひとり。

 岬 相太がいた。



 なぜだ?

 なぜ、コイツはまた、俺の前にラブレターを差し出している?




「あの、オレ、貴方が好きです!!」


「っ、はあ? お前、また間違えてんのかよ! ばっかじゃね?」

 ほんと、いい加減にしてほしい。

 俺は空也じゃねぇし。

 何回も言わせんなよ!!

 コイツを好きな俺が馬鹿みたいじゃん。



 ああ、もう。頭がズキズキする。


 胸も痛い。


 もし、もしも。

 俺が、こんな自己中心的な性格じゃなかったら――。

 俺が空也みたいに大人しくて、ほのぼのとした性格だったなら、相太は俺を好きでいてくれただろうか。


 これは罰。

 空也と偽った、俺への報いだ。



 俺は痛む胸を押さえ、相太から去ろうと無言で踵を返した。


 そうしたら……。


 グイッ!

「ぅわっ!!」

 俺の腕が後ろに引っ張られた。

 相太の力強い腕に、すっぽりと包まれてしまった。


「間違えていません。今度は絶対、間違えていないはずです! だって、海也さんでしょう? 間違えてないですよね?」


「うそ……?」

 だって、俺は、空也みたいに可愛くない。



「嘘じゃありません。たしかに、はじめは人違いだったかもしれませんが……。でも、オレが本当に好きになったのは、貴方です」


 真っ直ぐな視線で、彼はそう告げた。


 緊張しているのだろう。俺を包む手が震えていることに気がついた。



 本当に?


 相太は、俺が好き?


 間違いじゃない?


「嘘だって言っても、取り消せないからな……」

 俺は、ぽつりと言い捨てると、相太の襟元を引っ掴んだ。

 つま先立ちになり、薄い唇に、自らの唇を押しつける。



 相太は、俺の行動に驚いたのか、一瞬体を震わせた。

 だけどそれもすぐに形勢は逆転し、俺からの口づけはすぐに相太のペースに変わった。

 俺の背に、力強い腕が回る。



 ――相太、好き。


 俺も、相太の広い背中に腕を回し、もっと深い口づけを強請った。



 **END**


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