chapter:身代わり。 「っひ、あっ、ああっ!」 室内には俺の悲鳴と、それから俺を組み敷く男の声。それから、ぶつかり合う肌の音と淫猥な水音ばかりだ。 白い肌、華奢な身体には不似合いの、長い前髪から覗く黒い目は、まるで獰猛な肉食獣だ。 俺、名取 相太(なとり そうた)は、同じクラスの高橋 海匡(たかはし うきょう)に尻の孔を掘られ、強姦まがいなことをされている。 何で俺、こんなことになってるんだろう。 事の発端は、俺を組み敷く此奴が不登校になり、先生の言いつけで訪問したことにある。 俺の姿を見るなり盛ってきて、気が付いたらベッドの上に押し倒され、この様だ。 肉棒を貫かれている尻の孔が痛い。 「っひ、っぐ」 苦しくて息ができない。 俺の目から流れるのは、いったい何の涙だろう。 苦しみに悶えていると、高橋の細い腕が前に伸びてきた。俺の陰茎に触れる。 「っひ、触んなっ、やだあっ!!」 苦しみだけでいい。快楽なんていらない。 だって俺は此奴に強姦をされてるんだ。悦になんて浸らない。浸りたくない。 それなのに、高橋は俺の陰茎を擦り、快楽を与えてくる。 「ひぃう、ああっ」 初めて他人に陰茎を触れられ、自分でするよりもずっと気持ち良い。 腰は揺れてしまう。 そうしたら、高橋の肉棒が俺のある一点に触れた。 途端に俺は言い知れない強い刺激に襲われた。 それを知ったのか、高橋は自らの肉棒でそこばかりを執拗に攻めてくる。 「っひ、そこ、イヤだっ、擦らないでっ! イ、ぐっ、イぐ、ううっ!!」 最奥に押し込められ、高橋の白濁が注ぎ込まれる。 その快楽に飲み込まれ、俺も吐精した。高橋の手の中で……。 「ごめんっ、あの、タオル、持ってくる」 一通り俺を抱き終えた高橋は、震える声でそう言うと、部屋を出て行った。 シン、と静まりかえった部屋に、取り残された俺。 初めは拒絶こそあったものの、途中からは高橋のペースにのまれて、散々喘ぎまくって、注がれて感じたなんて……。 すっげぇ惨めだ。 体格差だってあまりないし、自慢じゃないけど俺、結構体育には自信あるし、あんな引きこもりに負けるなんて……。 悲しくて、苦しくて。じんわり涙が溢れてくる。 視線を下に向ければ、見えるのはあらわになる下半身と、そして高橋の白濁を受けた身体だ。 流れてくる涙をゴシゴシと擦り、消し去れば、ベッドの下に、プラスチックのケースが見えた。 怠い身体を動かし、それに手を伸ばす。 「なんだよ……これ」 ベッドの下には、隠したつもりなのか。 それはゲームソフトのケースだった。 パッケージを見た瞬間、俺の頭がフリーズした。 だって、そのパッケージ。女の子の顔が、俺と似ているんだ。大きな二重の目に、小さな鼻。髪型こそ違うものの、顔はまんま俺だ。 俺のこの女顔は昔からコンプレックスで、ずっと悩んでいたものだった。 ……まさか。 まさか、それで彼奴は俺を抱いたのか? 俺をこの子と思い込み、二次元の存在を被せて、俺を……? そう思ったら、怒りが込み上げてくる。 「ごめんね、これで拭いて……」 タイミング良く高橋が濡れたタオルを持ってきた。 「ふざけんなっ! なんだよこれっ!!」 俺は怒りにまかせて、高橋にゲームのケースを投げつけた。 「あ、そ、それは……」 「此奴の代わりで俺を抱いたのかよっ!?」 なんだよそれ、俺、最悪じゃんっ!! 悔しい。 苦しい。 悲しい。 「違うっ!!」 「違うって何がだよ?」 「この子を、名取と置き換えてゲームしてたんだ。僕、僕は……名取くんに一目惚れしてっ!!」 高橋? なにを言ってるの? 「ごめん、あの、ほんとに……ごめん」 最後の、『ごめん』は、今にも消え入りそうな声だった。 ヤられたのは俺の方なのに、高橋の方がずっと苦しそうで、居たたまれなくて、俺は無意識に手を差し伸べ、丸まった彼の背中を包み込んだ。 「な、とり?」 おかしい。 俺、強姦紛いなことをされたのに、身代わりじゃないって思ったら、すごくホッとしてる。 高橋を抱きしめるなんて……。 「身代わり、もういらねぇな」 って、俺、何を言ってるんだ!? 「っつ、名取くんっ!!」 もうダメだ。放っておけねぇ。 今の自分がなんだか可笑しくて笑えば、高橋は俺の口を塞いだ。 「好き、好きだ。名取くんが好き」 「っん、うう……」 口の中に高橋の舌が滑り込む。 俺も負けじと舌を絡み合わせ、吸い付けば、ベッドに倒された。 「もう一回、してもいい? ココに、俺を挿入(い)れたい」 尻をなぞられれば、高橋の肉棒が俺を貫いたあの快楽が襲う。 腰が揺れたのを同意と見たのか、俺の足を広げた。 勃ち上がった俺の陰茎の下で、高橋の反り上がった肉棒が見える。 「名取くんの中、トロトロだ」 「言うなっ!!」 そう言ったのは恥ずかしいからだ。今度は、もう、拒絶はしない。 だから俺は、高橋のほっそりとした背中に腕を回した。 「名取くん可愛い、可愛いっ!!」 高橋は俺を愛でる。 「っひ、う、あああっ!!」 「ここが悦(い)いんだよね」 さっき俺が感じた場所を覚えていた高橋が、反り上がった肉棒で中を擦る。 「っひ、やあ、そこ、擦ったら!!」 「名取くんっ!!」 「あっ、あああああっ!!」 高橋の、深い抽挿。二度目の吐精を注ぎ込まれた。 「ガッコ、明日から、来いよな」 「うんっ!」 すべてが終わったあと、ベッドの上で高橋に包まれている俺は口を開き、明日のことを伝える。 高橋の長すぎる前髪が邪魔で上げれば、顔をほころばせ、満面の笑みを浮かべた彼の顔があった。 頬を紅色に染め、口元は弧を描いている。 なんだよ、ものすげぇ可愛い顔してるじゃねぇかっ。 くっそ、嬉しそうにしやがって。 笑う高橋を恨みがましく睨みつけると、額に唇を落とされた。 ……ああ、どうしよう。胸が苦しい。 明日から、俺の心臓はもつのだろうか。 **END** |