chapter: 午後三時。 やや短めの艶やかな黒髪に、切れ長の二重の目。白衣を着た彼は、午前中のオペを終え、買ってきた唐揚げ弁当をもくもくと食っている。 今日の午前中の患者は、頭蓋底腫瘍(とうがいていしゅよう)の手術だったにもかかわらず、何でもなかったかのように、こうして食事をとっている。 「埜上(のがみ)、お疲れ。今日の午前中のオペ、大変だっただろう?」 「良性腫瘍だったからね。腫瘍を摘出すればなんとかなった」 彼は俺の言葉に、しれっと返事をした。 埜上は簡単にそう言ったが、頭蓋底腫瘍の摘出は、後遺症も残りやすい、きわめて困難な手術だ。 それなのに涼しい顔をしやがって! いつもこうだ! アイツはいつも、難しいと言われる手術を毎回そうやって、澄ました顔で終わらせる。 俺と同期なのに、ムカつく!! 少し意地悪をしてみたくて、俺は彼に歩み寄る。 「美味しそうだよね、それ」 デスクに手を置き、擦り寄るようにして近づいた。 「あ、ここの唐揚げ、ものすごく美味いんだよ。食べるか?」 まだ口をつけていない方の唐揚げを指差し、彼がそう言った。 「じゃあ、いただこうかな」 俺は弁当ではなく、彼に顔を近づけ、まだ動かしている口に食らいついた。 口内に舌を忍ばせ、彼の唐揚げを奪う。 「! っんぅ」 俺と交わった舌が震え、くぐもった声が聞こえた。 もっと声が聞きたい。 俺は彼の後頭部を引き寄せた。 無意識なのか、埜上の手が、俺が着ている白衣の裾を掴んだ。 「ん、っふ……」 水音が、静かな室内に響き渡る。 「うん、美味しい」 ややあって、唇を離せば……。 「っは……木津、なん、でっ!!」 今まで見たことがなかった真っ赤になった顔があった。 彼は切れ長の目を大きく開いて狼狽(うろた)えている。 「ん〜、埜上が味わいたくて……?」 にっこり微笑み、首を傾げて答えると、薄い唇が何度も開閉を繰り返す。 気のせいだろうか、埜上の顔が、さらに顔が赤くなったような……。 ……可愛い。 埜上の表情があまりにも可愛くて、さっきまでのイライラを忘れてしまった俺は、彼へと手を伸ばし、彼の尖った顎を持ち上げた。 「っき!!」 彼が何かを言おうとしたが、彼の唇を奪ったために、またくぐもった声になった。 やばい、図体がでかいだけに、この反応が可愛すぎる。 やみつきになりそうだ。 **END** |