れんやのたんぺんしゅ〜★
傷※r18





chapter:




 ◆



「おい、喉渇いた。水、買ってこい」

 オレンジ色に染まった裏庭で、薄い唇を開き、彼はボクに命令する。

 ボクにそう言ったのは、短い黒髪で、身長180センチ以上はある、ボクよりもずっと背が高い、目つきがとっても悪い人。名前は、小田 征也(おだ ゆきや)。ボクが通っている高校の、ふたつ上の先輩。

 その人の目尻から口元にかけては、深い傷がある。なんでも、中学の時、ケンカした時に作ったのだとか……。

 先生も怖くて、授業に出なかったりすることとか、ボクが使いっ走りされていることとかを注意しない。


 ここの学校にいるみんなが、この光景を見て見ぬ振りをしている。

 ……ボクも、怖くて。叩かれるんじゃないかとか、色々考えると、両親にも誰にも言えない。

 そんな怖い人に――どうしてボク、目を付けられちゃったんだろう。


 いくら遅刻する寸前だったからって、この人の前で手帳なんて落とさなければよかった。

 そうしたら、こんなことにはならなかったのに……。


 嘆いても、もう遅い。ボクはこの人の使いっ走りになってしまったんだ。


「早くしろっ!!」

「っ、ひっ!!」

 怖いよっ!

 殴られちゃうよっ!!

 もう一回、大声で怒鳴りつけられたボクは慌てて、校内にあるジュースボックスへ走る。

「ねぇ、君、可愛いよね。男にしておくのはもったいないくらい。前々からずっと目を付けていたんだよね〜。今日もお使いでちゅか? 」


 廊下のところでジュースボックスを見つけたボクは、お水を探した。

 そこで出会(でくわ)したのは……最悪だ。小田 征也とにらみ合っている、とってもガラの悪い不良の二人組だった。

「おい、やばいって、こいつ、小田 征也の犬じゃん。手、出したら何されるかわからねぇって!!」

「大丈夫だって。俺、負けねぇし? たかが犬に手を出したくらいで怒らないって」

「それもそうだな。いい気になるなって、ぶちのめすってのもいいよな」

 同意した連れの男子は、ボクににじり寄る。

 なんだろう。
 ものすごく怖い。

 じっとりとした目つきで、品定めをするかのように見つめられるこの感覚が、ものすごく気持ち悪い。


「っつ!!」

「ね〜、いいことしようね」

 怖くてへっぴり腰のボクは、逃げることができなくて、ただでさえひょろっとした軟弱なボクは、すぐに両腕を拘束された。


「いや、はなしてっ!!」


 どうしてこういう時に、どうしてあの人の顔を思い出すんだろう。

 目つきが悪くて、顔に深い傷を持っているあの人、小田 征也の顔を……。


「やめてっ! いやだあっ!! んむっ!」


 必死に抵抗するけれど、相手は二人組で、しかもケンカ慣れしている。だからボクを拘束するのも簡単で、口にハンカチを噛まされた。


 ブチブチと、ボクが着ていたカッターシャツのボタンが引き千切られていく……。

「んっ、ううっ」


 いやだ。怖いよ。ボク、どうなっちゃうの? 誰か……誰か助けてっ!!

 ボクが、ギュって目をつむった時だった。


「お前ら、そこで何をしている?」

 知っている、怒鳴り声が聞こえたんだ。

「なにって? いいことだよ」

 ニタニタ笑って言う二人組。


「てめっ!!」


 怒鳴ったその人は、一気に詰め寄った。

「っ!!」

 呻き声と、殴り合う恐ろしい音が何度も聞こえる。

 怖いよ。
 ボクはその場にしゃがみ込み、ただただ自分の頭を抱え込み、そのむごたらしい音が止むのを待つしかなかった。

「……悪かった」

 しばらくして、静かになった空間。そこで、ぽつりと声を出したのは、いつも、ボクを使いっ走りにしているその人が、無傷で立っていた。

 後ろを向けば、二人組がのびていた。

「ごめん、守れってやれなくて……。こいつら、お前のことを目ぇ付けてやがったから、なんとかしてやりたかったんだが……」

 ――へ?

 もしかして、ボクを守るために、ずっとこうして命令していたの?

 側に……いてくれたの?


「どう、して?」


「……一目惚れ」


 そう言った、彼の顔は、オレンジ色の夕日よりも、ずっと赤くなっているような気がする。



 ……ああ、そう言えば、彼、ボクを殴ろうとしたことは一度だってなかった。

『早くしろ』と怒鳴るばかりで、手は出されていない。


 どうしよう。あんなに怖かった顔の傷、全然怖くない。

 ボクの視界が歪んでいく……。

「うええっ、こわかったよ〜」

 腰に腕を巻き付ければ――。

 ポンポン。

 優しく頭を撫でてくれる。

 ボク、もう顔の傷、怖くないよ?

「うえええええんっ!」


 その日、ボクは、とっても怖い人だと思っていた彼にしがみつき、みっともなく大泣きした。



 **END**


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