chapter:腹痛さん ◆ 「腹、痛てぇ……」 小中高と同じ学校に通う十年の付き合いにもなる腐れ縁、高槻 慎也(たかつき しんや)からの電話に呼び出され、俺は今、奴の部屋にいる。 何事かと思って来てみれば、なんでも昨日、アイスを馬鹿食いしたらしい。 呆れ果てて何も言えねぇ。これは自業自得というものだ。 こいつは昔っからこんな奴だった。食い意地が張っていて、限界を超えてまで食べることに集中する。 そして結末は決まってこんな感じ。 いや、呆れているのはこいつだけじゃない。 こいつの性格を知っている俺自身にも、だ。 なにせ、こいつが腹痛を起こし俺が呼び出されるたびに焦っているのだから……。 俺がこいつを突き放せないのは、惚れているからだ。 気が強くて負けん気で意地っぱり。 自分がピンチになった時ばかり俺を使う。 まあ、たしかに目は大きいし、髪は艶があって背もチビだ。 そこいらの女子よりもずっと可愛いし、学校でも密かに慎也を狙っている野郎だっている。 守ってやりたいとも思う。 だけど、性格は褒められたものじゃない。 そんなこいつのどこに惚れたのか……。 自分でもよくわからない。 「冷たいものを一気に食い過ぎだ、馬鹿」 「うるさい……もう、お前帰れよっ」 帰れと言われても、お袋さんは今留主のようだし、涙目になってうずくまっている惚れた相手をひとりにして放っておけるわけがない。 腹痛になっていても強気でわがままって、いったい何様だ! 家に来る途中、いつものことですっかり要領を得ている俺は薬局で鎮痛剤を買ってきた。 いまだにうずくまっている慎也の傍まで歩み寄り、袋を慎也の目の前でかざす。 「ほら、薬飲めって」 だけど奴は俺の好意を受け取らなかった。 「それ苦いから嫌いだ!!」 それどころか、抗議までしてくる始末だ。 ありがとうも素直に言えないのかよ!! 「お前なあ、何歳の子供だよ」 呆れ果てた俺はビニール袋の中から箱を取り出し、個包装になっている袋を破いた。 「いやだって言ってんだろっ!」 薬の包みをわざわざ開封してやった俺の手を叩いた。 ……プチン。 俺の中の何かが切れる音がした。 「ああ、そうかよ! 文句なんて言わせねぇっ!!」 俺は新しい包みを開けると自分の口に入れ、水を含んだ。 驚いている慎也を引き寄せ、唇を塞ぐ。 「んぅ!!」 塞いだ唇は思いのほか柔らかい。 ゆっくりと喉の奥に注ぎ込み、薬を飲ませてやると、ほんの少し唇の距離が生まれる。 「かい、と……」 すると慎也は舌っ足らずな言葉で俺の名を呼んだ。 なんなんだよもう! 潤んだ目で俺を見やがって!! もう知らねぇ! こうなったらとことんまで落ちてやる!! 俺は自分の唇で塞いだまま、慎也を押し倒した。 **END** |