chapter:side:慎也 ◆ 俺が好きな人――海翔(かいと)には好きな人がいると風の噂で聞いた。 たしかに、海翔は綺麗な顔をしていて、モデル並みの容姿だ。すごくモテる。今日だって顔も知らない女子に告られてた。 だけど海翔はずっと断り続けていたし、だからこれからも俺とつるんでいくもんだと思っていた。 奴に好きな人がいて、彼女ができるなんてそんなこと、思いもしなかった。 焦った俺は、ある作戦を決行することにした。 作戦っていっても、たいしたことじゃない。海翔を独り占めしたくて、呼び出したんだ。 それなのに……。 海翔は全然優しくない。 たしかに。俺って素直じゃない。 腹が痛いと嘘の電話をすると、海翔は慌てて駆けつけてくれたのも知っている。 だけどさ、なんだよ。海翔のヤツ、全然優しくねぇし。俺、仮病だし薬いらないし。まあ、仮病だって知らないからしょうがないんだけどさ。 でも、薬嫌いだって言ってんのに無理矢理飲ませようとするなんて酷い。 俺って、海翔にとってただのお邪魔虫なのかな。 このままじゃ、海翔は好きな人と両想いになってしまう。俺の前からいなくなってしまう。 ズキズキ痛むのは腹じゃない。海翔を想う俺の胸だ。 苦しくなって涙が流れた。 「もういい……帰れよ」 海翔に言ったとたん、俺の唇が塞がれた。 息苦しくなって目を開ければ――なんで……? 俺、海翔にキスされていたんだ。 もしかして、俺の気持ち、バレてたのか? 可哀相だって思ったのか? だったらそんな優しさなんていらない。 「やっ、離せよっ!!」 「嫌だね、お前が悪い」 きっと怒ってるんだ。 呼び出しておいて帰れとか言うから……。 「っひ……も、やだ……」 涙が止まらない。目からはボロボロこぼれ落ちる。 も、ほんとに最悪だ。 「慎也?」 涙を流す俺を気遣う声が聞こえる。だけどそんな優しさもいらない。 「好きなのに……俺……海翔のこと……好きなのに……っひ」 「なんだよお前!! 突然しおらしくなるなよ」 「もういい、友達やめるっ」 「そうだな、友達はやめよう」 ズキンッ! 自分から言ったことなのに、うなずかれて胸が痛む。 離れて行かないで。そう言いたいのに、ダメだ。悲しすぎて言葉が出せない。 俺はみっともなくただひたすら嗚咽を漏らす。 そんな俺の泣き声を、だけど海翔の明るい声が遮った。 「その代わり、今から恋人な」 「えっ? えっ? えっ?」 瞬きを繰り返す俺を余所に、爽やかな笑みを浮かべ、そう言った。 **END** |