chapter:軌跡 ◆ 俺たちの畑に未確認飛行物体のミステリーサークルが現れた。生で見るのなんて何年ぶりだろう。すっげぇ嬉しい!! すっかり興奮気味の俺は、地面を飛び跳ね、一緒に暮らしている爺ちゃんに歩み寄ると、耳元で話しかけた。 「じっちゃん、俺、もう一回見てくるっ!」 「なんじゃって?」 「だから、ミステリーサークル、見に行ってくるね?」 「なんじゃて? サイダーなら昨日買ったべ?」 誰もサイダーなんて言ってないし。相変わらずじっちゃんは耳が遠い。耳に手を当て、鼓膜が破れるんじゃないかっていうくらい、大きな声で訊(たず)ねてくる。 「もう、外に出るからっ!」 「お前はちっこいからの、攫われんようにきぃつけてな〜」 痺れを切らした俺は、単刀直入にそう言うと、じっちゃんの声を背中越しで聞きながら、空いている窓から飛び降りた。 「うわ〜、やっぱり大きいなあ」 木の枝に登り、ミステリーサークルの全貌をなんとか見ようと、薄闇が広がる景色に、ただぼんやりと照らされた月明かりのみでひとつの幾何学模様を見つめていた。 俺は目を見開き、瞬きするのも惜しんで広がる光景に見入っていると、突然、空間と空間に割れ目が生じて、大きな塊が転がってきた。 何事? びっくりした俺はよじ登っていた木から飛び降り、塊があるそこまで走った。 「いたた。きちんと座標を確かめてから宇宙空間歪曲航法を使えばよかった。あ、はじめまして、櫂琉(かいる)くん」 塊はどうやら人のようだ。闇の中で動くと、むくりと起き上がった後、俺は持ち上げられ、彼の長い足の上に乗せられた。 微かな月光に照らされた彼はとても綺麗だった。長い睫毛に高い鼻。薄く発行しているように見える髪は、たぶん明るいところであれば、金色だろう。 見た目の年齢は、俺と同じくらいの二十五歳。 「ふえっ? なんで俺の名前!?」 この人、なんで俺の名前を知ってるの? もちろん、俺は彼とは初対面で、面識なんてない。 それにこの人、さっき空間を裂いて出てきたよね? っていうことは、まさか!! 「君がこの星に落ちてきたことは有名だもの」 男の人はそう言うと、にっこり笑った。 笑顔も綺麗。 ……ってそうじゃない。この人、さっき、『この星』って言った? ということは、やっぱり!! ゴクンと唾を飲み込めば、男の人は俺の考えていることがわかったようだ。大きく頷いて見せた。 「実は、君のお母上からのたっての願いで、俺が君の伴侶になることが決まったんだよ」 「ええっ? でも俺、男だしっ! しかも俺、君よりもずっと小さいよ?」 ――そう、そうなのだ。俺はチェレットという星から来た異星人で、地球の住人じゃない。俺の星では、この大きさが普通でも、他の星ではミニチュアサイズなのだ。 そしてじっちゃんはこの地球に住む人間で、お世話になっていた。 そもそも、俺がこの星に着陸してしまったのは、宇宙空間歪曲航法の装置が壊れてしまったからだった。装置を直したのは一年前。 早くチェレット星に帰らなきゃいけないと思いつつ、それでも帰れないのは、もうすっかり腰が折れ曲がってしまったじっちゃんを見捨てることができないからだ。 「大きさは問題ないよ? 俺たちクチュール星人は君を同じ大きさにすることが出来る力を持っているし。だからこそなんだろうね、人間で言うなら親指ほどしかない君の身体でしょう? 食べられてしまわないかを懸念して、俺たちに助けを求めてきたんだ。見返りは、君を嫁にするっていうことで……」 「ええっ!?」 それってそれって!! 「とはいえ、このままでも可愛いよね。人間世界の童話にあるらしいじゃない? 『おやゆび姫』だっけ?」 彼はクスクス笑った後、ポケットから何やら白い布を取り出した。 君のお母上からの預かりものだよ? そう言って俺に着せたのは、真っ白い、フリルがたくさん付いた……ドレスだった。 これって。もしかして……。 固まっている俺を手のひらに乗せ、彼はじっちゃんがいる家に足を向けた。 俺の花婿だと説明した後、すっかり仲良くなってしまった。 俺、これからどうなっちゃうんだろう。 まさか花嫁になっちゃうなんて!! 名前は、ディグレイス。彼は俺の……お婿さんになっちゃった! **END** |