chapter:理解不能 ◆ 「どうか両想いになれますようにっ!」 意識下で、どこか遠くの方から声が聞こえる。 「神様、どうかお願いします」 ……うるさい。朝っぱらからなんだよもう、休みの日くらいゆっくりさせてくれよ。 俺は布団を引っ被り、声を遮断した。 「湊人(みなと)が好きです、だから両想いに……」 だが、声は思いのほか大きくて、布団越しからでも良く聞こえる。 声の主は知っている。幼なじみの琴音(ことね)だ。 「だあああっ! うるせぇっ! 眠れないだろうがっ!! って、お前、なんでここにいるんだよ?」 被った布団ごと起き上がれば――俺たち年頃の高校生よりも少し背の低い琴音がいた。 あれ? しかしなんでコイツがここにいるんだ? たしか先月、琴音はお父さんの転勤で引っ越したはず……。 寝ていたのに起こされ、苛立ち紛れに訊ねると、にっこり笑った。 「湊人に会いたいって父さんに言ったら、連れてきてくれた」 はあ? なんっだそれ! 「それで? お前はなんで俺の部屋で気持ち悪いお願いしてるわけ?」 しかも朝っぱらから。 男が男相手に両想いってなんだよ? 俺が責めると、琴音の茶色い目が潤みはじめた。 華奢な体がいっそう縮こまって見える。 「……っつ!」 おいおい、なんでそこで泣き出すかな。 いつもなら、『うっそぴょーん』とか言って冗談をほのめかしてくるってのに……。 「湊人は、オレを気持ち悪いって思ってる?」 おずおずと訊ねてくるその声は今にも消え入りそうなほどで、もうどう対処していいのかわからない。 いつも、どんな時でも明るく笑う琴音は、生まれてから十五年間、住み慣れたこの村からの引っ越しする時だって、『これでお別れじゃないし。会おうと思ったら会えるから』と笑っていた。 泣く姿なんて初めて見る。 正直戸惑ってしまう。 琴音の慰め方を知らない俺は、華奢な肩を引き寄せ、背中をさする。 「思ってないから、泣き止め〜」 「うええっ……」 だから、なんで余計に泣くんだよ。 もう、困ったな。 シャンプーだろうか、甘いシトラスの香りが鼻孔をくすぐる。 胸の奥がくすぐったいのは何だろう。 よくわからない。 けっきょくその日。俺は母さんたちが部屋にやって来るまで、丸まった背中を撫で続けた。 この感情が恋だっていうことを知るのは、もう少し先のことだ……。 **END** |