れんやのたんぺんしゅ〜★
キミがスキ ※r18





chapter:大切 ※r18




 ◆



 今日はボクが龍サンの家にお世話になってから一ヶ月が経つ。

 それで、ボクは龍サンたちのお仲間の族サンの集会に参加させてもらったの。みんな優しいからボク大好きだ。

 難しいことはボクにはわからないけれど、これからのことを色々話し合っているみたい。

「三毛ちゃ〜ん、龍さんとはあれからどう?」

 みんなの話を意味がわからないまま聞いていたら、龍サンのお仲間サンに訊(き)かれた。きっとボクがちょっぴり退屈してたのがわかったのカモ。

 相手をしてくれるお仲間サンはやっぱり優しい。さすがは優しい龍サンのお仲間サンだよね。



「一緒にいるよ?」

 お仲間サンのひとりに返事をすると、また別のお仲間サンが身を乗り出してきた。

「えっ、何? まだヤってないの?」

「やる?」

 お仲間サンの言っていることがわからない。

 やるって何をだろう? わかんない。

 首を傾げていると、龍サンが目の前にやって来た。

「お前ら、こいつにおかしなことを吹き込むな」

「別におかしなことじゃねぇよな〜。俺ら、龍さんと三毛ちゃんがちゃんと生活できてるか不安なんだよ」

 いいお仲間サンばかりだね。

「ありがとう。龍サンはすっごく優しいの。毎日一緒に寝てくれてるよ?」

「おい、俺の許可なしに喋るなよ」

 余計なことを話すなと、龍サンはボクを睨(にら)んでいる。でもそんなのちっとも恐くないモン。


「寝るだけ? そこにセックスとかはあるの?」

「せっくす?」

 それって何?

 訊かれて答えたら、意味のわからない言葉があった。

 ほら、ボクって元は猫だから、人間の言葉は少し難しいんだ。


「おい、お前ら。いい加減にしろよ」

 ボクが固まっていると、龍サンは今度はお仲間サンを睨む。

 でもやっぱり龍サンはみんなにとっても恐くないみたい。どんなに睨まれても、龍サンは優しい人だってみんな知っているんだよ。


 だからお仲間サンは、龍サンを無視する。

「セックスは愛の証だよ? あれ、もしかしてまだなの?」

 それってしないと愛されてないってことになるの?

 頭の中がグルグルする。色々考えていたら、いつの間にかボクは龍サンの家に戻っていたんだ。




「龍サン、ボクのこと。嫌い?」

 ボクはソファーでくつろいでいる龍サンに訊(たず)ねた。


「そう言ったらお前はここから出て行くのか?」

 龍サンの薄い唇が微笑を浮かべている。

 なんだか今の龍サン、すっごい意地悪だ。

 ボクは龍サン以外に頼れる人なんていないのに……。

「……っつ」

 胸がズキズキする。

 龍サンの突き放されるような言い方に、目には涙が溜まる。


「ああ、もう。泣くな。そんなこと思ってねぇよ」

「でも、でもでも、『せっくす』? は、してくれないの?」

 お仲間サンが言っていた言葉を思い出して訊いてみる。

 そしたら龍サン、いったいどうしたんだろう。眉間に深い皺が寄った。

 ボク、何かいけないことを言ったのかな? わかんない。


「別にしなくてもいいだろう? それにお前はそれの意味を知らんだろう? ……まあ、前座はされていたが……というか、春を売って生活してたんだよな。他の男に知らず知らずに抱かれてたのかこいつ……」

「ゼンザ?」

 それって何?

 やっぱりわからなくて龍サンに訊いてみる。


「ここに来る前。お前、縄張り争いのとばっちりを受けて襲われていただろう。奴らの一物を咥えさせられただろうがよ」

 猫のボクの時にもあった同じもの。あれがまさか人間にもあったなんてびっくりだった。

 自分にもあるあれを無理矢理咥えさせられて、息が詰まるかと思った。


 前座? あれって前座なんだ……。

 じゃあ、龍サンにそれをしたら、龍サンはせっくす? する気になるのかな。


「龍サン」

 ボクは龍サンに手を伸ばし、ジッパーを下ろす。

 そしたら見えるのは、ボクと同じものだけど大きさが全然違う。龍サンの雄だ。


「おい、お前何やって!! って、言った傍から何しようとしてんだよ!」

「咥えたら、せっくすする気になるでしょう?」

 ボクは前に咥えさせられた時と同じように口を大きく開ける。

「俺を他の奴らと一緒にすんじゃねぇ!」

 ベロを伸ばして頑張って前座しようとしたボク。だけど龍サンはボクの肩を引き剥がし、手を……払われてしまった。

「もういい。お前、出て行け」

 大きな怒鳴り声が室内に響いた。

 その声は、ボクが初めて襲われた時――ボクを襲った相手に言った龍サンの声と同じもの。

 龍サン?

 どうしてそんなに怒っているの?


「ボクは!!」

 ここを追い出されたら、行く所なんてない。

 龍サンを怒らせる気なんてなかったんだ。ただもっと龍サンと仲良くなりたくて、ずっと一緒にいたくて……だからしただけなのに……。

「いいからさっさと出て行け!! 顔も見たくねぇっ!!」

 龍サンに手を伸ばそうとしたら、龍サンはそのまま勢いよく立ち上がって部屋を出て行ってしまった。

「っつ!」


 ……龍サンに嫌われた。もう終わりだ。

 ボク、これからどうしたらいいの?



「……っひ、ひっく」


 龍サンに追い出されたボクは、泣きべそをかきながら夜を徘徊する。

 そしたら、いつの間にかボクは、初めて龍サンと出会った河原へと知らず知らずのうちにやって来ていた。


 ボク、これからどうしたらいいんだろう。

 孤独になったボクはひとりぼっちだ。明日からの生き方も――人間の世界も――全部がわからない。



「君、こんな時分にここへ来るのは危険だよ?」

 すっかり打ちのめされていた時だ。男の人がボクに話しかけてきた。

 ここは街灯はあまりなくて、ちょっぴり暗くてわからないけど、年齢はたぶん龍サンと同じくらい。声は穏やかで、なんだか優しい人だって思った。

「家はどこ? ひとりなの?」

 男の人はうずくまっている見ず知らずのボクに、丁寧な口調で訊ねてくれる。


 大好きな人に追い出され、ひとりぼっちになってしまった今は、その優しさが辛い。


「家は……ない。龍サンに嫌われちゃった……出て行けって……」

 涙がまた、ボクの目からボタボタとこぼれ落ちていく。


「君、龍さんって言った? もしかして三毛くん?」

「お兄サンはどうしてボクの名前を知ってるの? お兄サンはだれ?」

 この人がまさか龍サンの知り合いだったなんて。ボクはびっくりして顔を上げた。

「俺は真樹(まき)。龍の先輩……かな。三毛くんのことは皆からよく聞いているんだよ。もし君が三毛くんなら、きっと今頃、龍は心配しているんじゃないかな」

 龍サンの先輩。お仲間サンっていうこと?

「心配……してないモン。ボク、追い出されたから……っひ、っひ……」

 龍サンに嫌われたことを口に出したら、胸のズキズキがいっそうひどくなった。呼吸ができない。

 嗚咽ばかりが口から飛び出る中、真樹サンはボクの頭を撫でてくれた。

 龍サンとは違う、優しい撫で方に、ボクは余計に泣いてしまう。


「さてね、それはどうかな? 龍はああいう性格だからね。なかなか素直じゃないんだよ。そこが困りものだよね」

 真樹サンは苦笑を漏らした。


「だいたい、あの人付き合いの悪い龍が誰かと一緒に過ごすなんてきいたことがないもの。大丈夫、事態は思ったよりも悪くはないよ。あ、噂をすれば何とやらってね。じゃあね三毛くん、またお話しようね」

 続けてそう言うと、ボクの頭にあったあたたかな手が消えた。すぐにどこかへ行ってしまった。

 真樹サンがいなくなってボクひとりになったこの一帯が、また、静かになる。

 真樹サンはああ言ってくれたけど、そんな都合のいいことにはならない。だって龍サン、すごく恐い顔してた。あんなに怒ってたモン。

 ……嫌われちゃった。

「胸が、いたいよ……お母さん、お父さん……ボク、こわいよ……」

 大好きな人がいない世界で、どうやって生きていけばいいの?

「りゅうさん……」

 呼んでも来てくれないことは知っている。それでも未練がましく好きな人の名前を口にした。

 その時だ。


「三毛!」

 龍サンの、声が聞こえたような気がしたんだ。

 うずくまっていた顔を上げて見上げれば、そこには知っている人の姿があった。


 龍サン?

「よかった……やっぱりここにいたか……」

 どうしてここにいるの?

「その、すまなかったよ。すぐ頭に血が上るから……先代にも散々注意されていたってのにな……ほら、帰るぞ」

「ヤだっ! 戻るのやだ!! 龍サン、ボクのこと、嫌ってる」

 龍サンがボクの腕を掴む。だけどボクはそれを振り払った。

 痛い。胸が苦しいよ。

 こんなことになるのなら、人間になりたいって神様にお願いするんじゃなかった。

 龍サンの傍にいたいって思うんじゃなかった。

 絶望に打ちのめされていると、龍サンはボクの肩を掴んできた。



「嫌いなら一緒にいない。俺は……その……お前を簡単に抱きたくないっていうか……お前を抱く代わりに居場所を与えるっていうことが嫌で……だから、その。俺はお前と同居していた他の奴らと一緒にされたくなかったっていうか……」

 最後の方は小さな声だったから、龍サンが何を言ったのかわからない。

 そもそも、龍サンって物事をはっきり言う人だ。こんなふうにブツブツ言ったりするのなんて、龍サンらしくない。

 龍サン、ボクのこと嫌いじゃないって言った?

 龍サンのひと言で胸のズキズキが消えた。

 涙もホラ、止まってる。

 ボクって本当に単純さんなんだ。

 それだけ、龍サンのことが好きだっていうことだよね。


「龍サン? それって……それって……」

 ボクの胸はズキズキが消えて、今度はドキドキしてる。


「ほら、帰るぞ!!」

 そう言った龍サンは、なんだか照れてるみたいにも見える。

「龍サン、好き」

「わかったからさっさと乗れ」

 抑えきれないその感情を言ったら、龍サンはカタマリの後ろを叩いた。

「……うん」

 龍サン。ボク、龍サンの隣にいてもいいんだね。

 ボクはカタマリに跨ると、龍サンの腰にしがみついて、あたたかな背中のぬくもりを感じた。



 **END**


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