chapter:嫉妬 ◆ 「和泉(いずみ)くん、チョコあげる。はい、あ〜ん」 自慢だが、俺はけっこう女子にモテる。 運動神経もいいし、モデル並みに足も長い。顔もそこそこいけてると思う。甘い物が好物で、だからこうやって女子によく甘い菓子を貰(もら)う。 だけど知らなかった。女子だけじゃなくて一部――というか、ごくごく一部の男子にもモテるってこと。 女子に菓子を貰っていると感じる視線。その先には決まってクラスメイトのソイツがいる。 名前は中山 一利(なかやま いちり)。クセ毛の俺とは違って流れるような黒髪に中性的な顔立ちをした君。あまり自分から発言しないし控え目なタイプだから、初めは中山のことは何も知らなかった。 だけどさあ、振り向けば、ほら、そうやって君は目をつり上げて唇を噛みしめる。 「中山、唇切れるぞ?」 「っ、ひゃ……」 中山に声をかければ、さっきの表情が嘘のように頬が赤く染まる。中山って肌が白い分、少し赤くなるとすぐにわかるんだよな。 「ちょっといい?」 俺は廊下の死角に中山を連れ出し、尋(たず)ねる。 「俺に何か言うこと、ない?」 「ないよ、別に!」 ふうん? まだしらばっくれるのか……。 「梓ちゃんのとこに行って来ようかなあ」 思ってもみないことを告げてみる。 チラリ、中山の顔を窺(うかが)えば――。 「っつ!!」 ホラ、また唇噛んでる。あ〜あ、血が滲んでるし。痛そうだし。 「で? 俺に何か言いたいことあるでしょう?」 「……行か、ないで」 もう一回尋ねてみると、中山は観念して口を開いた。 「なんで?」 だけど俺ってば結構根性が悪い。中山に確信のついた言葉を言わせたくてついつい意地悪をしてしまう。 「どうしてって……言ったら……嫌われる」 中山は俯いて、屈み込んで見てみれば、大きな目に涙が溜まっている。 ――ああ、もう。本当に可愛いなあ。 「嫌わないって言ったら?」 首を傾げて言ってみる。 だって、もう俺は知っている。中山が誰を好きなのか。それは中山をずっと見てきた俺も同じだから。 初めはびっくりしたけど、次第に突き刺さる視線の中山が気になって、気がついたら俺も君を目で追うようになっていた。 中山は首が引き千切れるんじゃないかっていうくらい、大きく頭を振った。 「嫌う。和泉、気持ち悪いって言う……」 あ〜、もうっ! なんなんだよこの可愛さ! 女子よりも可愛いんじゃね? 俺の方が降参だ。 中山の後頭部を押さえ、赤い唇に口づける。 「っ、ふ……」 中山の甘ったるい声が唇から抜けていく……。 「好きだよ」 「えっ?」 俺の突然の告白に、中山は上ずった声を上げて顔を上げた。 「強がりだけど本当は泣き虫なところも。俺と女子の仲を嫉妬してくれて唇を噛むその仕草も」 「っんなっ、知って!!」 知ってるも何もバレバレだし。 「だけどね、やっぱり痕が残ったら大変だから。あ、そっか。唇を噛む前に、俺が塞いじゃえばいいんじゃん」 「っふあっ?」 「そうしようか」 「っ嫉妬なんてしてないし、もう噛まないしっ!!」 だけど俺は、そっぽを向いた中山の耳が赤く染まっているのを見逃しはしない。 **END** |