chapter:和泉の愛で方 ◆ 俺、和泉 裄矢(いずみ ゆきや)には気になる子がいる。その子は俺と同じクラスの中山 一利(なかやま いちり)。 中山とは同じクラスだったけれど、あんまりしゃべらないから目立たなくて、正直気にしたことがなかったんだが、俺に向けてくる視線が気になって、いつの間にか中山を目で追うようになっていた。 それで先日、俺は中山と話をして、恋人同士になった。 ――んだけど……。 俺って結構根性が悪い。 というか、そもそも中山が可愛いから悪いんだ。 「和泉〜、ポッキーあげる〜」 俺が中山と話をしていると、突然クラスの女子から菓子のお裾分け。 ポッキーの一本を差し出してくれる。 これはいつもと同じ光景。 俺も好きな菓子をくれる女子を別段追い払う理由もないからこうして遊ぶ。 「サンキュー!」 口を開けて、ポッキーの一本を放り込んでもらう。 だけど俺が女子から菓子を貰(もら)うのは、何も『菓子が大好きすぎるから』という意味だけではない。 もうひとつ、実は理由があったりするんだよ。 それっていうのも――……。 横目で隣をチラッと見れば、中山が――。 眉根を寄せて――ホラ、こうして睨んでくるだろう? そう。これこそが、俺が女子と仲良くする理由でもある。 中山のこういう嫉妬心を剥(む)き出しにして怒るところとかもう可愛すぎてイジめたくなっちまうんだよ。 あ〜、だけど唇、また噛んでるし。 「中山中山」 「なに?」 ムスッとして答えるその声がとても不機嫌そうだ。中山くん、相当怒ってます。 「さっきの古文の授業のさ、ここの部分、どう読むのかわかんなかったから教えて」 不機嫌な中山にお構いなく、俺はにっこり笑いながら古文の教科書を開き、中山の視界を覆う。 「はあ?」 中山は、突然何を言い出すんだって目尻がさらにつり上がる。 だけどそれこそが俺の狙いでもあったりする。 中山が俺の顔をまともに見た瞬間――。 スキアリ。 ほんの一瞬、だけど今はそれで十分な時間。俺は中山が噛みしめていた唇を塞いだ。 「っんぅ!?」 「中山、また唇噛んでたぞ? 傷になるからやめろよ?」 中山の唇を解放してやった後、そっと耳打ちすると、顔はさらに真っ赤に染まる。 「っは……なんっ!!」 腕で唇を押さえてしどろもどろだ。そういうところも可愛い。 「可愛いからキスしたくなったんだよ、別にいいだろ? 恋人同士なんだし」 誰にも聞こえないよう、ボソッと言ってみる。 「っつぅうう」 中山の華奢な体がさらに縮こまる。 「なになに? どうしたの?」 俺と中山の会話が気になったのか、数人の女子がやって来る。 中山はまた嫉妬するのだろうか。 そっと隣の様子を窺(うかが)えば、どうやらそれどころじゃないらしい。俯いていて表情まではわからないが、耳まで真っ赤になっている。 「いいや、なんでもねぇ。な、中山」 わざと話しかけてみるけれど、やっぱり中山は何も言えず、いっそう肩を縮めた。 「っつ」 嫉妬するその姿も、顔を真っ赤にする表情も、全部が可愛い。 そして俺は、今日も可愛い中山を堪能する。 **END** |