chapter:和泉の苦難。実は、和泉の敵は予想以上に多かった。 ◆ 俺、和泉 裄矢(いずみ ゆきや)には恋人がいる。彼の名は――。 「中山、手伝うよ。上の方、届かないだろう?」 そう、中山 一利(なかやま いちり)。彼は俺の恋人。 今日の一利は日直。今、次の授業のために黒板を消している。 自分の背では届かない高いところを背伸びして必死に消そうとしているその姿が可愛い。 もう少し背伸びをする可愛い一利を見ていたい気もするが、そろそろ手を貸してあげよう。 席から立ち上がったその時だった。一利に、突然声をかけたヤツがいた。 って、なんだよあいつ!! 一利の肩にさりげなく触りやがった!! あいつはたしか伊藤、だっけ? 一利が一人の時にやたらと声をかけてきやがる奴らの内の一人なんだよな。 ヤツのデレデレ顔が苛(いら)つく! 下心あるの見え見えなんだよ!! 一利は普段あまり自分から発言もしねぇし、だからいくら可愛い顔をしていても言い寄ってくる奴らは早々いないと思っていたのに、最近はそれが大間違いだったっていうことに気がついた。 しかも一利、自分が密かに野郎たちに人気だってこと、全然気づいてねぇしっ! 「ありがとう。日直の仕事なのに手伝ってくれて」 一利は伊藤に笑いかけて礼を言う。 だけどソイツの下心は丸見えだぞ。気をつけろよ。って、それは無理か。だって一利はそこいらの女子よりも自分が可愛いっていうこと自覚してねぇもん。 これじゃあ何のために俺が一利と付き合っていることをオープンにしたのかわかんねぇしっ! 「礼なんていいんだよ。それでな、その代わりなんだが、今度の日曜なんだけどな?」 そうこうしている内に、伊藤の片手がまた一利の肩に触れた。 これ以上、俺の一利に触れるなよ。 俺は大股で一利と伊藤の間に立ち、黒板に手を付けた。俺の腕で二人の間に境界線を作る。周囲からは黄色い声が聞こえるけどそんなの無視。今はそれどころじゃねぇ。一利の危機だ。 「俺も聞きたいな。今度の日曜、何?」 にっこり笑って伊藤に話しかける。自分の顔が今どんななのかはわからねぇけど、多分、一利に近づくんじゃねぇオーラがものすげぇ出てるんじゃねぇかな。 「あ、いや。その、なんでもないんだよ、はははは」 伊藤は俺の顔を見るなり後退(あとずさ)ると走って逃げていった。 ルックスだって俺の方が上なんだ。伊藤のクセに俺を出し抜いて一利に近づこうなんて百年早ぇえんだよ。 「? 伊藤、どうしたんだろう?」 振り向けば、一利は小首を傾げていた。 「…………」 どうしたんだろうって、一利。自分が狙われてること無自覚かよっ! いや、その仕草もなんか小動物みたいで可愛いけど。男心くすぐるけどっ! というか一利は俺が女子と一緒にいる時は嫉妬心を剥(む)き出しにして怒るのに自分の事となると全然わかってねぇ。 そもそも一利は俺が女子といる時の剣幕がねぇから、言い寄ってくるヤツらがわんさかじゃねぇか! 「一利……」 頼むから、自分が可愛いのを理解してくれ。 実は男子たちに狙われてるってことを知ってくれ……。 ――いや、理解していないからこそのこの可愛さなのか。だったら一利は俺が守るしかねぇ。 俺は一利と向き合うと、彼の体を引き寄せた。今が十五分休憩の移動時間でクラスの連中がいることなんてどうでもいい。 「えっ、あのっ、和泉!?」 俺の腕の中で一利が慌てている。 俺に抱きしめられた一利の体が熱を持ちはじめている。 一利の体温が上昇していく。だけどそれは俺だって同じだ。 一利を抱きしめている俺の体も熱い。 ――ああ、俺って本当に一利が好きなんだ。つくづく思い知らされる。 初めはどうであれ、おそらく今は俺の方が一利のことを想っているに違いない。 「和泉っ? 突然どうしたの? みんな見てるよっ?」 たしかに周りからは黄色い声やらザワついた野郎たちの声が聞こえる。だけど今はそんなことどうだっていい。 慌てふためく、上ずった一利の声が可愛い。 「いい、周りなんて放っとけ」 くっそ、絶対に一利は渡さねぇからな!! その日、俺は一利を抱きしめながら、何があっても放さないと誓った。 **END** |