transend darkness-

第四章





chapter:動き出す闇T




 T



 都市圏人工が二千万人にも及ぶ、千四百五十四フィートにもなる百二階建ての高層ビル五十階の一角に、彼、ランバート・ディルモアはいた。

 室内には一切の明かりを点けていないものの、それでも青や黄色といった光に包まれていた。

 その中で、彼は何をするでもなくバルコニーに続く大きな窓の外を見つめ、佇んでいた。

 窓の外は夜だというのに一向に訪れる気配がない。光は煌々と輝き、その中でところどころ闇が浮かんでいた。

 腰まであるブロンドと同じ色をした、どこか冷ややかな雰囲気のあるアンバーの目が、その夜景を写している。

 彼の口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。

 彼は、悪魔たちが植え付けた人間たちの恐怖を喰っていた。


 もっとより上質な食事がしたい。

 彼の欲望は尽きることはなかった。

 その欲望を満たすためには、より強力な力が必要だ。

 悪魔も第二形態だけではなく、第三形態から最終形態を悪魔界から呼び出し、人間を襲わせる。


 しかし、それにはひとつ問題があった。

 あるヴァンパイアが邪魔をしているということだ。

 エクソシストとかいう、あのふざけた団体と結託しているヴァンパイアがいるのだ。

 たったひとりのヴァンパイアを消し去るのにここまで時間がかかるとは思いもしなかった。

 ランバートの思い通りにならない現実に、怒りがふつふつと込み上げてくる。

 彼の眉間に青筋が浮かび上がった。

 怒りが頂点に達しようとしていたちょうどその時だ。扉をノックする音を聞き、怒りを抑えた。

 震える声で侵入の許可を与えると、間もなくして体格の良い、襟足までの短い黒髪の男が部屋に入ってきた。


「俺たちの計画を邪魔する者が何者なのかわかった。イジドア・ダルグリッシュだ」

 部屋に入るなり口を開き、そう言った彼の言葉を聞いたランバートは、抑えていた怒りがふたたび込み上げてくるのを感じた。

 外の光景を見つめていた冷たいアンバーの瞳が部屋に入ってきた彼を写す。


「それで? 貴様は何もせず、のうのうと俺の元に戻ったと?」

 怒りをあらわにした彼の唇は引き結ばれる。

 ランバートが彼に協力したのは、自分という存在を察知されないようにするための策略だった。

 その彼は思いのほか使い物にならない。新たに発覚した事実によって、ランバートの怒りは簡単に枷を越え、頂点に達した。

 彼の太い首を片手で掴むと、頭上へと掲げた。

 身長二百センチのランバートよりも頭ひとつ分は低い彼は宙吊りになり、呼吸ができなくなる。

 耳障りな骨が軋む音と、彼の苦しみもがく声が、静かな部屋に響き渡る。


 ランバートは空間に響くそれらが心地良かった。

 首を掴む腕に、さらに力を入れる。

 生み出された苦しみに耐えきれなくなった彼は、顔を真っ赤にして口を開く。


「強力な力を持ったエクソシストがいる」


 息も絶え絶えに言った彼の言葉に反応したランバートは腕から力を抜いた。

 大きな音をたてて、彼は背中からフローリングに転がり落ちる。


「どういう意味だ?」


「一瞬にして瘴気(しょうき)を掻き消す力を持つエクソシストがいる」

 一度は酸素不足に陥った彼は大きく呼吸しながら咳き込み、首元に手を添えてそう言った。


 彼が口にした人物は、ランバートにも心当たりがあった。

 たしか十五年ほど前だっただろうか、今よりも力がずいぶんと低かった時、自分が手に掛けたエクソシストもそのような力があった。

 悪魔をも容易く討ち滅ぼすことのできる強力な力。

 その力を欲するが故に、彼はひとつの小さな村を地図から消し去った。

 そして、その力は今、自分の中にある。

 エクソシストの力を自分のものにすることに成功したのだ。

 おかげでランバートは、ただ生き血を吸うだけの無能なヴァンパイアとは違う、強力な力を得た。

 そして今となっては悪魔をも足下に傅(かしず)かせることも可能になった。

 十五年前の当時。ランバートは目についた人間を片っ端から掴み、食事をしたからどの人間がそれに当たるのかは見当がつかないが、たしかそのエクソシストには子供がいた筈だ。

 自らの消息を絶つため、村に炎を放ち、葬り去った。だからてっきりすべて消したと思っていたが、それは違ったのだろうか。


 さて、エクソシストの名は何と言ったか……。


「その者の名は?」

「……わからない」


 ランバートの問いに、しかし彼は小さく首を振った。

「ほう?」

 ランバートは眉をひそめた。

 「だが、イジドアと一緒にいることはたしかだ。奴がいる屋敷の場所もおおよそだが見当はついている」

 彼は自分が殺されると思い、必死にあらゆるかぎりの情報源をランバートに伝えた。


 果たして新たな情報を得たランバートはといえば、怒りはもうすっかり消え去っていた。

 ランバートは口元を緩ませ、煌々と輝く外の景色を見つめている。


 もし、彼の言うことが正しければ、自分は今よりもさらなる力を得ることができる。

 過去、その力を手にすることができなかったのは悔やめるが、しかし悪魔の数を圧倒的に増やした今の方がかえって都合が良いかもしれない。



「網を張る。戦闘の準備をしておけ」

 ランバートは彼にそう言うと背を向け、闇へと消えた。





- 14 -

拍手

[*前] | [次#]
ページ:

しおりを挟む | しおり一覧
表紙へ

contents

lotus bloom