chapter:動き出す闇X X 男はノアの首に手をかけ、かろうじて息ができるようにノアを苦しめる。 「くそっ! やはりか。これはもうすでに他のヴァンパイアの所有物になっていやがった!! お前の主はどこだ」 どういうことだろう。ノアは薄れゆく意識の中で疑問を抱えた。 自分は、どういうわけか日中でも平然と動き回ることができるヴァンパイアに捕まった。そして父のように殺されるのかと思ったが、しかしヴァンパイアはそうしなかった。 ――いや、できなかったらしい。 「意味がわからないか? まあ、どのみち、主はお前を助けにくるだろう。暇つぶしにでもわかるように説明してやろう。幸い、お前はヴァンパイアになっていないようだし、この私がお前の力を奪うのも時間の問題だ」 ヴァンパイアはノアの生まれ出た疑問を察したのか、そう言うと、細い首から手を解いた。 地面に倒れ込むノアは、しかし自由にはならなかった。 ノアが身に着けていたシャツを、ヴァンパイアは引き裂いた。 あらわになるのは、イジドアが弄ったおかげでツンと尖った赤い突起と、そして白い柔肌に乗った赤い痣が散りばめられた淫らな身体だ。 ノアは羞恥に塗れ、自分の身体を隠すために腕を絡める。しかしそれを後ろからやって来た悪魔によって止められた。 両手を固定され、ヴァンパイアの前で上半身をさらけ出された。 悪魔とは、人間のあらゆる欲望を食事にしている。だから本来は知能も何もない、野心が固まった存在だ。その悪魔がこうしてノアを戒め、結託者のヴァンパイアの意思どおりに動いているのは、最終形態だからこそだった。 「ここもだ!!」 ヴァンパイアはしなやかな下肢にあるデニムと下着さえも取り除き、ノアの身体が無防備な状態へとさらされる。 ノアは悪魔の腕から逃れようと懸命に足掻く。しかしさすがは最終形態だ。悪魔の力はおそろしく強い。ノアの抵抗も取るに足らないものだった。 悪魔に掴まれた細い両腕が軋み、激痛を生む。 ノアの顔は苦痛に歪んだ。 悪魔はそれを喰らっているのか、実に楽しそうだ。 「ここにねじ込まれたんだろう? 主に男根を!!」 ノアの力を奪えない苛立ちで怒り狂うヴァンパイアは、上半身からしなやかに流れた両足を開かせ、双丘の奥にある蕾をあらわにした。 骨張った指が蕾を広げる。 「やめろ! いやだっ!!」 慣らされてもいない蕾の中に指を二本も入れられ、痛みが生まれる。 けれど、蕾は快楽を与えてくれることを知っている。指の指示されるがままに、従順に開いていった。 外の冷ややかな空気が蕾の奥へ侵入してくる。 「イジドア、いやだっ!! イジドア!!」 ノアは自分を組み敷いた主の名を必死に叫ぶ。 組み敷くならイジドアがいい。自分を組み敷いて良いのは、時折見せる思いやりの心を持った彼だけだ。 けっして冷徹なこのヴァンパイアではない。 ノアは無意識に彼の名を呼び、ひたすら首を振り続けた。 「ノア!!」 ノアの叫びが天に通じたのか、彼が待ち望んだヴァンパイアが姿を現した。 彼はフードを被り、ふらついた足取りで部屋の扉を開けると、腰にあるジャマダハルを構えた。 ノアのあられもない姿を見たイジドアは不快に眉を潜めた。 「イジドア!!」 「はじめまして、君がイジドア・ダルグリッシュだな?」 こちらから何も手を下さずとも、今にも倒れてしまいそうな侵入者を一瞥(いちべつ)したヴァンパイアは、楽しそうに口元を歪めながら訊(たず)ねた。 「お前は誰だ」 ヴァンパイアに返事をせず、訊(き)き返したイジドアの息はもうすでに上がっている。 日が高い中を動き回りすぎたらしい。 ノアは自分がイジドアを苦しめていることを知り、胸を痛めた。 「私はランバート。君よりもずっと力のある強固な存在だ。しかし困っていてね、君が組み敷いたこの青年はすっかり君を主としているじゃないか」 ヴァンパイアはそこまで言うと、ノアの背中に回り、イジドアに見せつけるようにして彼がいる入口に向かって、しなやかな両足を開かせた。 ノアの視線の先――そこにドレッサーがあった。 ドレッサーに写るのは、ランバートの腕に固定され、足を開く淫らな自分だ。 自分のあられのない姿に目をつむりたくなる。 しかし、それをしなかったのは、自分を戒めているランバートの姿が、けっしてやせ細った黒髪の人間ではなかったからだ。 ドレッサーに写っていたのは、金の鋭い目と長い髪。大きな口をした、狂気じみた気配をまとうヴァンパイアだった。 「お前は……」 その姿は忘れもしない。ノアが十五年前に見た、両親を殺したあの憎きヴァンパイアだ。 ノアの中で怒りが生まれる。 しかしその怒りはすぐに途絶えた。ランバートにあらわになった蕾を弄られたからだ。 ノアの身体は小さく跳ねた後、挿し込まれる指に慣れはじめたのか、亀頭から蜜が流れ、蕾を濡らす。 ヴァンパイアが蕾を弄るそのたびに、新たな水音が生まれる。 「いやっ、いやだ!! こんなのっ!!」 両親を殺した獰猛なヴァンパイアに自分の身体さえも好き勝手にされることが、ノアは許せなかった。 唇を噛みしめ、喘ぐまいと堪えても、しかし彼から与えられる快楽に染まり、淫らな声を出してしまう。 ノアはすすり泣きを漏らし、悲しみと憎しみを訴える。 それしかできない自分が呪わしい。 「ノアを放せ!」 怒りに満ちたイジドアの声が、濡れた音を掻き消した。 ノアは快楽に溺れつつある身体でもなんとか逃げだそうと試みる。身体をひねるが、押し寄せてくる快楽に負け、従順に染まっていく。 その自分が恨めしい。 「君の相手は我が友、リーパーがしてくれる。ノア、君の相手は私だ。目の前で主が殺されるのをたっぷり見ながら昇り詰めるといい。そして私の所有物に塗り替えられた後、お前は私の血肉となって生きるのだ。光栄だろう?」 残酷な言葉がノアの耳を貫く。 リーパーはランバートの言葉を合図にして大鎌を振り、周囲に風を起こす。しかしどういったわけか、部屋の内部は壊れない。 どうやらここはランバートが作った異なる世界らしい。 ということは、自分は招き入れられたということか。 イジドアはすべてを理解し、舌打ちをした。 ランバートが指を鳴らせば、まるでイジドアが思っているとおりだとでも言うように、彼の意思をもって部屋の窓を覆っていた分厚いカーテンと窓が開いた。 明るい午後の日差しが部屋中を覆う。 イジドアの体力が根こそぎ奪われていく。 イジドアが怯んだその隙を狙い、リーパーの大鎌がイジドアの懐を狙う。 寸前のところでなんとか体勢をつくり、鋭い刃に身を真っ二つにされそうなところを回避する。 しかし、コートは無事ではなかった。 大鎌が半月を描いてイジドアのコートを引き裂いた。 すると、分厚いコートは簡単に昼の日差しを通しはじめる。 焼け焦げた鼻に突く匂いが周囲に立ち込める。皮膚からは煙が生まれ、炎が包みはじめる。 イジドアは太陽に焼かれ、跪(ひざまず)いた。 「イジドア! やめろ!!」 このままではイジドアが死んでしまう。 止めに入りたいノアだが、しかし自分はランバートに弄ばれるばかりだ。 肉壁の中を指が掻き乱す。 彼の指が凝りの部分に到達した。 いっそうの強い刺激がノアの身体を襲う。 華奢な身体が弓なりに反れる。 亀頭から溢れた甘い蜜はいっそう蕾を濡らした。 「良い子だ。だいぶん主に躾(しつけ)られているのか。ずいぶんと感じやすくなっているな。これで最後としようか」 ノアの身体がフローリングから浮く。 真下にあるのは、イジドアとは違う男根だ。亀頭が蕾を押し開く。 そして、焼け焦げた身体が地面に転がるイジドアにもリーパーの鋭い刃が振り下ろされる。 「やめろ、いやだっ、イジドア!! 伯父さん、助けて!! やめろっ!」 このままではイジドアが殺されてしまう。 ノアの悲痛な叫びが周囲を包んだその直後だ。 数十人の人間が部屋の扉を突き破り、姿を現した。 彼らは皆、斧やダガー、ボーガンといった、それぞれが扱いやすい武器を手にしていた。 ランバートはどうやら気を抜いていたらしい。自分が作り出した空間を破った侵入者に気づかなかった。 ノアは新たな侵入者たちの中にモンタギューがいることを知り、彼が仲間を集めて来てくれたのだと思った。 快楽に溺れていた身体が動き、動揺を隠せないランバートを押し退ける。転げ回るイジドアに駆け寄った。 ランバートはどうやら自分に分がないと悟ったのか、舌打ちをすると、僕(しもべ)のリーパーを連れてその場から消えた。 敵は一時的にしろ姿を消し、危機は脱した。 しかし、イジドアは死を彷徨っていた。 あれほど洗練された肉体のほとんどは赤く焼けただれた状態になり、鼻をへし曲げるほどの異臭を放っている。 表情はもう何もわからない。漆黒の瞳はなく、白目になって気を失っていた。 「イジドア、ああ、嘘だろう?」 ノアは自分の身体を盾にして、太陽の光によって焼けただれていく身体を太陽光から遮った。 イジドアの苦しそうな唸る声がノアの耳に突き刺さる。 それでもノアは諦めることなく、彼の名を叫び続けた。 ―第四章・完― |