transend darkness-

第五章





chapter:明かされる真実V




 V


 あの男はいったい何者なのだろう。

 ノアは予期していなかった侵入者のことを考えていた。

 ヴァンパイアは蝙蝠(こうもり)や霧に姿を変え、移動する。扉の施錠などという安易な手段は防衛策にならない。そのことを忘れていたノアは、歯ぎしりした。


 当初、ノアはいまだに意識を取り戻さないイジドアから目を離さず、様子を見続けていたのだが、サイモンに指摘され、食事を摂るために一階のダイニングキッチンにいた。

 それがいけなかった。

 ヴァンパイアの気配がこの屋敷内に生まれたのを感じ取り、辿って来てみれば、イジドアの部屋に見知らぬ男がいるではないか。

 そして彼は、イジドアの息の根を止めようとしていた。


 たしかモンタギューは、ランバートはヴァンパイアとしての能力よりも悪魔の力の方が強いと言っていた。彼が立ち去り際に、屋敷全体に悪魔払いの術をかけてくれた。

 だからランバートや悪魔はいかなる手段をもってしても、この屋敷に近づくことはできない。

 それがたとえ、どんなに強い魔力をもっていたとしても、だ。

 だからこの屋敷に侵入できるのは、人間の姿をしたヴァンパイアのみ可能になる。

 てっきり、ランバートは悪魔ばかりと結託しているのだと思っていたが、まさかヴァンパイアとも繋がっていたとは……。

 これはノアが予測していなかった出来事だった。

 それにしても、あの侵入者はどこかイジドアと似ている。表情や顔つきではない。イジドアが醸し出す雰囲気と似ているのだ。


 もしかすると、あの男こそが最近世間を騒がせている、二十代の女性を襲い、血液を吸い尽くしているヴァンパイアだろうか。しかし相手は男女二人組だと聞く。

 ともすれば、ランバートと手を組んだあの男の他に女性のヴァンパイアもいるということか。

 ノアはパイプ椅子に腰掛け、考えを巡らせる。すると、室内の沈黙を破る呻き声が響いた。その声はとても苦しそうだ。

 間一髪のところで間に合ったと思っていたが、先ほどのヴァンパイアに傷つけられたのだろうか。

 ノアは張り巡らせていた思考を中断し、慌ててイジドアの様子を探った。


 蝋燭(ろうそく)が取り付けてある燭台(しょくだい)を手にすると、炎によって生み出される明かりをベッドの上に横たわるイジドアの身体に翳(かざ)した。

 仄かな蝋燭の明かりにより、闇の中から美しい肉体が浮かび上がった。ノアはイジドアに惑わされないよう、出血や目新しい傷がないかどうかを目ざとく確認していく。


 別段、傷を付けられた様子はない。

 ほっとひと息ついたノアは、イジドアの額を撫でた。

 肌は滑らかだが、死人のように冷たいのはヴァンパイアだからだ。温度を感じない。

 それでもイジドアは獰猛(どうもう)な化け物ではないと、今ならばわかる。

 なにせ彼は四年前に交わされたモンタギューとの契約を守り続けていたのだから……。

 イジドアにとって、契約とはいったいどういうものなのだろうか。

 焼かれ死ぬかも知れない危機的状況の中、イジドアは契約を守るためにノアを助けた。

 普通ならば、契約よりも自分の命の方が大切だと考える。

 命をなげうってまで契約を守り通すほどのものではない。

 たとえ立場が人間であってもそれは何ら変わらない。自分の犠牲を払ってまで、自分ではない他の誰かを助けようとは思わない。


 しかし彼はすべからく契約に則(のっと)り、実行に移した。

 そこに隠れた彼の心情とは何だろう。

 たとえそれが太陽であっても、自分は何者を相手にしても強固な存在だと自負しているのだろうか。

 しかし、イジドアの寝室は地下にあり、太陽を極端に嫌っているように見える。



 ――ああ、それにしてもイジドアはとても美しい。

 象牙色の肌は滑らかだ。角張った顎は凛々しい。高い鼻梁の下にある薄い唇は何度もノアの唇を塞ぎ、喘がせた。



 繊細な人差し指が唇の形状をたしかめるようになぞる。

 この唇がノアの身体を暴(あば)いたのだと思うと、下肢が疼く。


「イジドア……」

 ノアが甘いため息と共に彼を呼んだその途端、まるでノアの呼び声に反応したかのように漆黒の目が開いた。

 輸血をしている方の腕が伸びたと思ったら、同時に強い力で引っ張られる。視界が反転する。


 ノアは驚き、短い悲鳴を上げる。しかしその唇はすぐに塞がれた。

 彼の、薄い唇が真紅の唇を覆う。


 ノアは驚いたものの、けれど抵抗は見せなかった。

 その理由は、イジドアの意識が戻ったのかもしれないと思ったからだ。

 しかし、どうにも様子がおかしい。

 彼はひと言も発することなく、ただノアの唇を貪るばかりだ。

 彼の長い舌が真紅の唇を割って口内に侵入すると、ノアの舌を絡め取る。

 そうなると、ノアの身体は少しずつ熱を持ち、思考が停止する。

 快楽に染まっていくノアも、イジドアの舌に呼応するように自らも動き、彼の舌を追う。

 波打つ漆黒の髪に指を絡め、後頭部にすがりつくと、口角が変えられ、より深い口づけを与えられた。


 濡れた水音とリップ音。そしてノアのくぐもった喘ぎ声が室内を覆う。

 真紅の唇からはいったいどちらのものかわからない唾液の筋が流れ落ちる。


 ……もっと深く、イジドアを感じたい。

 ノアがたくましい背中に腕を回すと、彼の欲望に呼応するかのようにイジドアは動いた。


 ノアを腕の中に押し入れると起き上がり、ノアが着ていたチュニックを引き裂いた。

 そこでノアは、彼が欲望のままに動いていることを知った。


「イジドア?」

 ノアが彼を呼んでも、返事は一向に返ってこない。

 代わりに、彼の手があらわになった素肌を撫でる。

 まるで肉食獣を思わせるようなくぐもった声が、ノアの耳孔をくすぐる。

 その声が、ノアのみぞおちを刺激する。

 さらにノアを興奮させた。

 唇を貪られたまま、あらわになった胸の突起を骨張った指に摘まれた。

 突起はさらに尖り、胸にあることを強調している。

 真紅の唇を貪っていた薄い唇はノアの顎を通り、首筋から突起へと滑らせる。

 そしてふたつの突起を交互に捉え、吸い付いた。

 突起を歯で捉えると、歯の隙間から飛び出した舌が舐める。

 ノアが自分の胸を見下ろせば、艶やかに妖しく滑っているのが見えた。まるで禁断の果実のような赤をしている。

 イジドアはその様子を面白がっているのか、一方の突起を啄んでは唇を離し、そしてまた一方の突起を含み、舌で転がす。

 おかげで痺れるような甘い疼きがイジドアに弄られている突起から生まれる。ノアの一物が反応している。

 ノアは喘ぎ、少しずつ上り詰めていく……。


 一物は膨れ上がり、下着がじんわりと濡れている。


「イジドア……」

 胸だけではなく、もっと下の部分にも触れてほしい。


 ノアは身じろぎをして、強調しはじめているそこを触ってくれるよう、イジドアに催促する。

 イジドアはそれを感じ取ったのか、ノアの乳首を解放すると、上半身の服を取り除いたように下着とデニムも下肢から剥ぎ取った。

 揺らめく蝋燭の炎が、しなやかな肢体を照らす。

 首筋から流れるS字型の鎖骨。胸にあるツンと尖った乳首はイジドアの唾液でたっぷり濡れている。みぞおちはノアが喘ぐそのたびに膨らんだり萎んだりを繰り返し――太腿の間にある、イジドアと同じ形をした小振りな一物はすっかり身をもたげていた。


 身体の細部まで見つめられる彼の鋭い熱視線を感じる。


 ノアは視姦されることが急に恥ずかしくなり、漆黒の瞳から逃れるようにして視線を外した。


(顔が熱い。頬が赤く染まっているのが自分でもわかる)


 いくら契約のためとはいえ、命の危険も顧みず、彼は自分を助けてくれた。

 イジドアとは夜毎この行為を繰り返しているというのに、今さら恥ずかしいと思うのは、自分の命が彼によって救われたという事実があるからだ。

 ノアの心は少しずつ、イジドアの方に傾きつつあった。


 ノアは気恥ずかしさから太腿を閉じる。だがイジドアはノアの思い通りにはさせてくれなかった。

 彼の骨張った手が、ノアの太腿を開かせる。

 するとすぐに、ノアの陰茎に顔を埋めた。

 彼の息が直接触れる。ノアは待ちに待った瞬間に息を詰めた。

 ノアの舌や乳首を絡め取っていた彼の舌が、ノアの陰茎を這う。

 ノアは仰け反り、甘い声を上げた。

 亀頭からは蜜が溢れ、滴り落ちる。

 その蜜を追うようにして、薄い唇がノアの陰茎を丁寧に舐め取っていく……。


 もう限界だった。

 ノアはいっそう悩ましげな甘い声を上げ、腰を揺らす。


 するとたくましい腕が浮いた腰を固定した。どうやらイジドアも限界のようだ。彼の舌が、双丘の奥に隠れている蕾を捉えた。

 骨張った太い指が蕾を開かせると、艶めかしい肉がひらく音が聞こえた。


 外の空気に触れた肉壁が震える。

 ノアは真紅の唇を大きく開き、甘い声を放つ。


 蕾の中へと侵入を果たした長い舌はゆっくり中を解し、深い場所まで侵入してくる。

 ノアはよりいっそう、イジドアが侵入しやすいように腰を浮かせた。

 そうすると見えるのは、張り詰めている一物が自ら放った蜜で濡れそぼっている状態だ。


「ああ、イジドア……」

 ノアは熱っぽい嬌声を上げる。


 イジドアは唸り声を上げるとこれまで蕾を解すばかりだった舌を引き抜いた。

 すると彼の腕によってノアの体位が変えられる。腹這いにさせられた。そうかと思えば、唾液で濡れた蕾に太い男根が沈んでいく……。

 まだ慣れきっていないそこをひと息にねじ込まれたノアの身体は弓なりに反れる。

 突然の挿入にノアの身体が強張るものの、それでも何度も行われる深い抽挿に、やがて炎が渦巻く。

 幾度となく華奢な腰が揺すられる。

 張り詰めた亀頭からは蜜が絶えず流れ落ち、真っ白なシーツを濡らして染みをつくる。


 イジドアの攻めによって限界に達したノアは呻き声を上げ、亀頭から勢いよく吐精する。同時にイジドアのくぐもった声が耳孔へ直接届く。ノアの最奥を貫いた彼の男根は肉壁の締め付けで弾け、ノアの腹部に注がれる。

 熱い迸りがノアの体内に勢いよく侵入してきた。

 ノアはいっそう身体を反らした。男根を咥えている肉壁が窄まり、締め付けを強くする。


 しかし、彼はそれだけで満足しなかった。

 イジドアの精を受けたノアの身体は反転する。

 一度果ててしまったノアの身体は敏感だ。些細なことでもすぐに反応してしまう。それなのに、彼を咥えたまま体勢を変えられれば、ノアはまた上り詰める。残りの精さえも吐き出した。

 ノアは上り詰めたおかげでぐったりとしている。それでもイジドアの男根を咥えたまま上体を起こされ、腰を固定されてしまった。

 ノアはイジドアの身体を跨ぎ、騎乗位へと変えさせられた。


 肉壁を掻き分け、より深く、男根が刻み込まれる。

 一度は最奥に注がれた白濁が肉壁を通り、蕾から太腿へと滴り落ちていく。

 陰茎からは蜜を吹き出し、蕾からはイジドアの精を流す。



 耳の遠くでは、点滴スタンドが倒れる音が聞こえた。

 しかし、ノアの意識はすでに失いつつある。

 夢の中にいるような感覚に近かった。


 深くまでひと息に彼に貫かれ、ノアの身体が大きく反れる。そうすると、胸にある赤く腫れたふたつの突起が強調しているのが見える。

 立て続けの攻めによって喘ぐばかりの唇からは唾液が流れ、自らの身体を濡らす。


 蝋燭の炎に照らされ、妖しく滑った肢体。

 イジドアは獣の唸り声を放ち、華奢な腰を持ち上げた。

 ノアの肉壁から男根が引き抜かれる。


 そうかと思えば、彼は強く腰を引っ張った。

 男根が蕾を貫き、肉壁を掻き分ける。



 幾度となく繰り返される深く激しい抽挿。

 イジドアは精が尽きることがないのか、彼の陰茎はノアと同じく吐精したというのにすぐに膨らみを増し、そのたびにノアの最奥へと白濁が注がれる。

 これが、モンタギューが言っていた肉欲というものなのか。

 この行為の終わりが見えない。


 何度も最奥でイジドアの精を受けたノアの腹は膨らんでいく……。

 艶めかしい肉がぶつかる音と水音が始終聞こえる。



 ノアは上り詰めた先に何があるのかを予期していなかった。


 もう何も考えることができない。

 それでもイジドアはノアの身体を貪る。



 ノアは押し寄せてくる強烈な快楽にすすり泣き、意識が途切れるまでイジドアの欲望を浴び続けた。





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