chapter:たったひとりの生存者U U ノア・フィルスコットは突然目を覚ました。 何処からか電話のコール音がひっきりなしに鳴っている。 窓からは明るい太陽の日差しが、ノアのいるベッドまで差し込んでいる。 目の前にあるのは二人掛け用のソファーとローテーブル。そしてテレビだ。先ほどまで漆黒だった世界とは打って変わって、今ではすっかり見慣れた風景が広がっていた。 いったい、今は何時頃だろう。 背後にあるデジタル時計を見ると、数字は七時を表示していた。 どうやら先ほどの出来事は夢だったらしい。 ノアは荒い息を整えるため、深い呼吸を繰り返した。 他愛のない動作ひとつをするたびに、たっぷり汗をかいた身体にシャツが張り付き、気持ちが悪いことこの上ない。 顔の前に垂れ落ちてくる母親譲りのクセのある金髪を掻き上げれば、じっとりと汗ばんでいる。 ノアはあまりの気持ち悪さに顔をしかめた。 彼は、こうして十歳の頃から二十五になった今も、見続ける悪夢に悩まされている。おかげで寝覚めは最悪だ。 それにしても、さっきから一向に鳴り止む気配のないコール音はいったい何処から鳴っているのだろう。 ノアは忌々(いまいま)しい耳障りな電子音に悪態をつくと、カーペットに足先を下ろした。 同時にナイトテーブルに置いてある固定電話のディスプレイが緑色に点滅しているのに気が付いた。 まさか悪態をついた相手が自分だったとは――。 ノアは鉛のように重たい腕を伸ばし、未だにしつこく鳴り続けている電話のディスプレイを覗いた。 相手先は、『モンタギュー・マーコリー』と表示されていた。 「もしもし、伯父(おじ)さん?」 受話器を取り、声を出せば掠(かす)れていて、なかなかに酷い嗄(しわが)れた声だった。 ノアは二、三回咳払いをすると、こんな時間にどうしたのかと訊(たず)ねた。 「それはこっちのセリフだ。声が酷いな、何かあったのか? さては付き合っていた彼女にでも振られたか」 明るい口調なのは相変わらずだが、やはりノアを心配するような儚げな声音だった。 「恋人なんていない。そんなの、伯父さんはとっくに知っているだろう?」 ノアにとって、色恋に現(うつつ)をぬかしている暇はない。ため息混じりにそう言うと、モンタギューは、「知っている」と、静かに言った。そしてモンタギューは続けて「もったいないな、お前さんはとても綺麗な顔をしているのに……その気になれば彼女の一人や二人、すぐに作れるだろう」とも言った。彼のその声は落胆にも近い。 「……十五年前の出来事を夢で見たんだ」 ノアは小さく首を振り、モンタギューに隠すのも今さらだと、重たい口を開いた。 |