chapter:心とは裏腹の身体U U 真紅の唇から飛び出した小さな悲鳴は闇に消える。 ノアの背中に肌触りの良い布の弾力を感じた。 これが何を示すのかは、ノア自身が彼の寝室に忍び込むたびに経験していることなので容易に理解出来る。 今回こそは彼の思い通りにさせないと意気込み、抵抗を図る腕は押さえつけられ、抗議するために開いた唇は、薄い唇によって阻止された。 ――自分の唇は彼に塞がれている。 そう思っただけで、しなやかなノアの腰が跳ねる。ノアの下肢が少しずつ熱を帯びていく――……。 イジドアはノアの状況を感じ取ったのか、よりいっそう唇の接合を深くした。 彼の長い舌が口内をくぐり、上顎をなぞり、歯列を通って下顎へと我が物顔で蹂躙しはじめる。 彼の舌が動くたび、ノアの背筋には電流が走り、身体が震える。 イジドアによって与えられる快楽からなんとかして逃れようと身じろぎをするものの、口内を好き勝手に動き回る彼には敵わない。ノアの舌は、簡単に絡め取られてしまう。 そうなってしまえば、主導権はイジドアに流れる。 イジドアはいつだってノアの官能を刺激するのが上手い。 ――いや、何もノアだけではないだろう。なにせ彼の美貌は誰にだって通用する。 彼をひとたび目にしただけで、女性でも男性であっても、誰も彼もが彼の虜になる。 そしてイジドアは言い寄ってくる彼らを拒むことなく受け入れ、楽しいひとときを送るに違いない。 そのことは、同性のノアを慣れた手つきで組み敷いていることから容易に想像がつく。 彼の薄い唇が自分ではない誰かの唇を塞ぎ、滑らかな肌を貪る。 今自分にしていることを、ノアが知らないところで身体を交え、喘がせる。 それを考えると、ノアは不快になった。 この不快感がいったい何を示すものなのか。 実はノア自身、すでに薄々と気づいている。 しかし、ノアはこの感情について深く知ろうとは思わなかった。 知れば最後、身動きが取れなくなってしまいそうで怖かったからだ。 そして今の状況にしても身動きは取れていない。 薄い唇は、ノアの唇の形状を確かめるように自由気ままに動いている。 頬から顎へ、そして耳へと移動したその唇は、ノアの耳朶を甘く噛む。 ノアの腰はふたたび跳ねる。 イジドアはノアの反応を楽しんでいた。 長い舌を耳孔へと差し込む。 熱を持つ滑った舌が耳孔をなぞるたび、耳から直接届く水音がノアを攻める。 おかげでノアの陰茎はデニムを押し上げ、下肢にあることを強調している。 自分を攻める水音と共に、笑ったような吐息を感じた。 自分に刃を向けた相手が、その人物によって快楽を感じ、身体を開くノアを、彼はさぞや滑稽(こっけい)に思っていることだろう。 しかし今のノアにとって、それさえも官能を刺激するものでしかない。 ノアは唾液で濡れそぼった真紅の唇を開き、ただただ喘ぐばかりだ。 すっかり従順な快楽の僕と成り下がったノアだが、イジドアはそれに満足するような男ではない。ノアをさらなる官能に導くため、動く。 耳孔を這う長い舌は、甘い血液が流れている首筋の血管に狙いを定めた。 もしかすると、今度こそ自分は存分に血液を吸われ、殺されてしまうのかもしれない。 彼は食事をしたがっている。 ノアが『今度こそ』と思うのは、これまで彼の寝室に押し掛け、命を奪おうと刃を向けても、ノアの血液を摂取しなかったからだ。 それどころか、彼は自分に殺意を抱く人間を屋敷に住まわせる。 この行動は、どう考えても獰猛なヴァンパイアらしくない。 しかも彼の食事といえば、もっぱら、契約しているエクソシスト教団名義で集められた善良な市民からの献血による血液パックだ。 イジドアの行動のどれをとっても、従来の獰猛なヴァンパイアとはほど遠い。 彼はなぜ、殺意を抱く自分を一つ屋根の下に住まわせているのだろうか。 ひょっとしてイジドアにとって自分は性欲処理として考えているのかもしれない。 いやしかし、彼はとても美しい。イジドアがこの屋敷から一歩でも足を踏み出せば、彼をひと目見た誰しもが虜になるに違いない。 だからわざわざ、こんな貧弱な骨ばかりが目立つ自分を抱かずとも上質な性的欲望を満たすことができる。 彼にとって食料にもならないノアはどう考えても邪魔者だ。 そして自分は、彼の中に理性があるかぎり、エクソシスト教団からイジドア討伐の許しを得ることができないのも事実だった。 いや、もしかすると今日こそイジドアの理性は尽きるかもしれない。 そう思うと、ノアはイジドアに裏切られたような気分になった。 けれどもそれもなんともおかしな心情だ。なにせイジドアはノアに、『善良なヴァンパイアになる』という約束を交わしていないのだ。それにヴァンパイアは生きとし生けるものには必ずある、生と死という自然の摂理からはみ出た化け物だ。 彼らは欲望のためなら簡単に理性を失う。 それらのことを考えると、イジドアによって浮かされた熱は消えていく。 しかしイジドアが理性を失うということはノアにとって好機でもある。そうなれば、心置きなく刃を振るうことができる。 ――大丈夫。ベッドからぶら下がっている右手の中にはまだナイフがある。 ノアは銀のナイフが手の中にあるのをたしかめ、イジドアが獰猛な化け物と化すその時を狙う。 けれどもイジドアは、ノアから血液をくすねることはなかった。 彼の薄い唇はノアの頸動脈(けいどうみゃく)を通り過ぎ、落ちていく。 そうして彼は、ゆるやかなS字になっている艶めかしい鎖骨の部分へと移動した。 薄い唇が開き、食む。歯の隙間から長い舌が飛び出し、ノアの柔肌を味わう。 命を賭(と)した戦いが今まさにはじまろうとしている。覚悟していたものの、けれどその時はやって来ない。 一度は失いつつあった欲望の炎がふたたびノアの中に宿る。 イジドアのざらついた舌の表面がノアの鎖骨をなぞり――歯を剥き出しにして甘噛みし、吸い上げる。 ノアの華奢な腰がベッドから離れ、陶器の肌をした喉元があらわになる。 こうしてノアの柔肌は、イジドアによって赤い痣を落とされ、彼に抱かれたという証が残る。 真紅の唇からは悩ましげな声が漏れる。 下腹部には熱が溜まる。 それでもイジドアの執拗な攻めは止まらない。 ノアの身体はイジドアの唇を受け続け――手にしていたナイフはとうとう離れてしまった。 繊細な指先からナイフが滑り落ち、乾いた金属音を立ててフローリングに転がる。 ――ああ、今回も仕留めることができなかった。 ノアは快楽という熱に浮かされながら、敗北を味わっていた。 その一方で、今日もノアを負かしたイジドアはというと――彼もまた完全な勝利を勝ち取ったとは言えなかった。 普段、挑戦的な敵意を剥き出しにしたアイスブルーの目は押し寄せてくる快楽の波によって涙で潤み、滑らかな肌は紅色に染まる。麦畑を思わせる絹糸のような手触りをした短い髪がはためき、真紅の唇は艶やかな嬌声を発する。 中でもイジドアを魅了したのは、余計な筋肉がない華奢な身体が曲線を描き、弓なりに反れる姿だ。 ベッドの上で乱れるノアはとても淫猥で扇情的だ。ノアは無意識にもイジドアを煽(あお)っていた。 そのノアは、快楽によって沈みゆく意識の片隅で、布を引き裂く音を耳にする。 それが何を意味するのかを知ったのはこのすぐ後だ。 イジドアの唇を執拗に受け続け、熱を孕んだ身体がやや肌寒く感じた。 視線を落とし見れば、ノアが彼の部屋に侵入した時、しっかり閉め忘れた半開きの扉から漏れた蝋燭の明かりに照らされた、美しい肉体美を持つイジドアとは違う脆弱(ぜいじゃく)で見窄らしい、日焼け知らずの剥き出しになった肌だ。 布が引き裂かれる音を耳にしたのはまさしく、イジドアがノアの服を破く音だった。 白い肌の胸部に乗るふたつの突起は、この屋敷に来る前まではさして気にもしていなかった部位だ。 しかし今は違う。彼の寝室に忍び込むたび、弄られるそこは甘い果実のように赤く熟し、ツンと尖っている。 イジドアによって変えられてしまった身体をまざまざと見せつけられたノアは、強烈な羞恥に襲われた。 蝋燭に照らされた妖しく浮かぶ陶器の白。その上に乗っているふたつの突起。 イジドアの唇は艶めかしく揺れている突起のひとつを捕らえた。 ノアは、ねっとりとした生あたたかな感触に包まれ、ふたたび身体は大きく弓なりに反れる。 それを合図に、赤く熟れたもう片方の突起も彼の骨張った指に捕まった。 イジドアは指の腹を使い、突起の先端を執拗に弄る。 長期にわたり、悪魔退治をしてきたという証の、剣を握る時にできた胼胝(たこ)を、触れられた乳首に感じた。 彼は少なからずとも、自分たちエクソシストと協力し、人々を守る手助けをしている。 こういう行為の最中であっても、むざむざと思い知らされる事実。 心の片隅で、イジドアという人物を少しばかり頼もしく思ってしまう自分がいた。 いや、そんなことは有り得ない。ヴァンパイアは獰猛で残忍な化け物だ。 ノアは生まれ出たおかしな感情を強く否定する。有り得ない考えから逃れるため、ひたすら快楽に身を任せた。 ――ああ、ざらついた彼の長い舌が、自分の乳首を舐めている。 疼きを増し、乳頭がいっそう硬く尖る。 生まれた疼きはやがて全身へと行き渡った。 ノアの太腿の間にある陰茎が刺激を受け、デニムパンツを押し上げている。 イジドアの薄い唇が――。 骨張った長い指が――。 イジドアがノアを蹂躙するたびに、華奢な腰が跳ね、何度も浮き沈みを繰り返す。 片方の突起を唇で存分に弄り終えればもう片方も――。イジドアの攻めは終わらない。 男の色香を持つ彼が執拗に自分の胸を愛撫するその姿は、これまで長い間眠っていたノアの性的欲望を刺激する。 気が狂いそうになるほどの熱が、ノアのすべてを包み込む。 イジドアの愛撫によって出来上がるのは、彼の唾液によって濡れそぼる赤く尖ったふたつの突起だ。 ノアはここへきて、ふたたび苛立ちを感じていた。 ――ヴァンパイアは両親の命を奪った憎い相手だ。 その化け物に身体を開き、淫らに喘ぐ。それは本来ならば堪え難い屈辱になるはずだ。しかし、快楽に溺れたノアは今、気にも留めていなかった。 『嫌だ』と拒絶する唇とは裏腹に、心の奥底では彼に抱かれることを望んでいる。 ノアが苛立ちを感じたのは、まさにその部分だった。 ヴァンパイアであるイジドアにではなく、嫌だ嫌だと言いながらも従順に身体を開く自分自身に、だ。 表面上では、たしかにイジドアを憎み、殺したいと思っているものの、深い意識の中には彼に抱かれることを望み、こうして彼の寝首を襲っているのかもしれない。 その考えが、ノアを打ちのめす。 しかし、イジドアはノアにそれ以上のことを考える余裕を与えなかった。 これが最後だと言わんばかりに、薄い唇は――骨張った指は――濡れそぼった胸の突起に吸いつき、あるいは強く引っ張り上げた。 本来ならば痛みを伴うはずのその行為は、熱に浮かされた身体ではさらなる快楽を引き出すものでしかない。 真紅の唇からは艶やかな嬌声が放たれ、身体が今まで以上に大きく弓なりに反れる。 そしてとうとう、張り詰めた陰茎からは勢いよく蜜が飛び出した。蜜は、陰茎を戒めていたデニムパンツをたっぷり濡らす。 胸を弄られただけで達したノアは男を知ってしまった。 吐精したノアは抵抗さえもできず、ベッドの上でぐったりと横たわる。 それでもイジドアはノアを手放そうとはしなかった。 淫らに濡れているツンと尖った突起を弄り続け、彼の薄い唇は柔肌を堪能する。 達してしまったノアの身体は今まで以上に敏感になっている。たとえどんな些細な触れ方だとしても、機敏に反応してしまう。 華奢な身体は跳ね続け、そのたびにベッドのスプリングが軋んだ音を放つ。 薄い唇を受け続ける柔肌。 おかげで真紅の唇は淫らな喘ぎ声を発するばかりで、閉じることはない。唇の端からは飲み込むことができず、口内から溢れた唾液が顎を伝い、首筋へと流れ、艶やかな滑りを帯びている。 腹部、みぞおち、太腿。イジドアは、ノアの上半身を蹂躙した後、やがて吐精したばかりの濡れた陰茎へと到達する。 同時にノアを魅了していた突起を胸の上で転がしていた骨張った指が離れた。 しなやかな両足にまとわりついていたデニムパンツは下着ごと消え去る。 ほどなくして、ほっそりとしたしなやかな肢体が薄闇の中に浮かび上がった。 ――赤い斑点があらゆるところに散っている日焼け知らずの白い柔肌。 ――赤く腫れたふたつの乳首。 漆黒の瞳が一糸もまとわない身体のすべてを包み隠さず写し出す。 中でも彼の視線は太腿の間に留まっている。そのことをノアは感じ取っていた。 視姦によって羞恥が生まれ、身じろげば、たくましい腕によって阻止される。 ノアの足はより大きく開いたまま、固定されてしまった。 そうなってはもう隠す術はない。ノアは喘ぎそうになる唇を強く噛みしめ、イジドアから視線を外す。 「身体は正直だな、見られて興奮しているのか?」 「……っつ!!」 イジドアの含み笑いにノアの身体が跳ねた。 図星だ。イジドアにすべてを見られて興奮しているノアの陰茎はふたたび張り詰めている。陰茎は二度目の精を放ちたいと、心待ちにしている。 もはや心の奥底で性的欲望を抱いていることを隠し通すことはできない。 イジドアに抱かれることを望んでいるのは、張り詰めたノアの陰茎を見れば一目瞭然だ。 観念したノアは目を閉ざし、身体から力を抜いた。 ノアは自らの欲望を認めた。それを知ったイジドアは、剥き出しになっている張り詰めた陰茎を口に含んだ。 ねっとりとした口内に包まれたノアの陰茎は一気に回復し、ふたたび蜜を流しはじめる。 閉じていた真紅の唇は開き、いっそう大きな嬌声が放たれる。 イジドアはノアの形状を確かめるようにして口を窄めたり、吸ったりを繰り返す。 「イジドア……」 艶やかな声が彼の名を呼ぶと、それを合図に、亀頭の割れ目に舌先を差し込み、舐める。 ノアは与えられる快楽に染まっていった。 そして、イジドアからもたらされた快楽はノアの羞恥を上回る。 ノアは細い腕を伸ばし、漆黒の波打つ髪に指を差し込んだ。 熱を帯びた声でイジドアの名をひっきりなしに呼び、しなやかな足は彼の引き締まった身体に絡みつく。 するとイジドアは白い歯を剥き出しにして陰茎の裏を甘く噛む。 強烈な刺激がノアを襲う。 ノアはさらに追い詰められていく……。 淫猥な水音がノアの耳を刺激する。 ノアを存分に味わったイジドアは、そうしてやっと戒めから解放した。 しかし、これが終わりではない。 さらなる快楽を求め、ノアの身体が開く。 イジドアもまた、しなやかな足を持ち上げた。 そこにあるのは艶めかしくも美しい、赤く熟した蕾だ。 そこはこれまでに幾度となくイジドアの熱く太い楔を打ち付けてきた場所だ。蕾は陰茎を伝った蜜のおかげでたっぷり濡れている。 蕾はイジドアを待ち望み、何度も開閉を繰り返していた。 イジドアはノアを貫くため、骨張った指の一本を挿し入れた。 嬌声と入り交じった悲鳴が寝室全体に響き渡る。 排泄するためだけに存在するその場所は、けっして受け入れるところではない。 何度貫かれようとも蕾はすぐに閉ざしてしまう。 イジドアは閉じた蕾をふたたび開花させるべく、解しにかかる。 蕾の中に挿し込まれた指は骨張っていて冷たい。快楽によって熱に浮かされた身体が刺激される。 異物が体内に入ってくるどうしようもない違和感がノアを襲う。 しかし、それもほんの一時にすぎない。肉壁を動き回る指が第一関節まで侵入し、一部分を擦り上げた時、ノアの腰がベッドから浮いた。 ノアの身体に電流が走るような強い刺激が駆け巡る。 ――もっと……。 もっと欲しい。骨張った指で擦っているその部分を、もっと強く擦ってほしい。 ――いや、違う。 ノアが望むものは骨張った指ではなく、指よりもずっと太くて硬い、男根だ。 その男根で肉壁を擦り、最奥まで貫いてほしい。 ノアはしなやかな腰を振り、彼を誘惑する。 そのたびに、すっかり張り詰めている陰茎の亀頭からは蜜が溢れ出し、男根を受け入れる蕾を濡らす。 肉壁を解す骨張った指の動きに合わせて淫らな水音が弾き出される。 その淫猥な水音はまるでノア自身が自ら濡らしているかのように感じた。 限界はもうすぐそこまでやってきている。 ノアの体内でくすぶっていた炎はやがて大きく燃え盛り、どうしにもできない欲望が生まれる。 「イジドア……」 ノアが彼の名を三度呼ぶと、イジドアは魅力的な蕾から指を引き抜き、自身を戒めているデニムのジッパーを下ろした。 欲望の炎を宿したアイスブルーの瞳が、大きく反り上がった男根を写し出す。 男根はこれ以上ないくらいに赤黒く膨れ上がり、血管が浮き出ている。 ノアは自分よりも大きな男根を目にして、口に溜まっている唾液を飲み込んだ。 心は歓喜に打ち震え、目の前の張り詰めた男根に貫かれることを待ちわびる。 ノアは自ら膝を曲げ、蕾を広げる。 ベッドの上で包み隠さず魅せる、しなやかな肢体。 そこにはもはや、この部屋にやって来た当初の反抗的な姿はない。 あるのは欲望に塗れ、蜜で濡れそぼった魅惑的な肢体だけだ。 ノアは懇願にも似たすすり泣きを漏らし、イジドアに身を委ねる。 そうして待ちに待った瞬間が与えられた。 太い男根が蕾を貫き、肉壁を押し広げて最奥へと進む。 貫く男根は熱を宿している。ノアの身体は焼かれるような熱に侵される。 華奢な腰はいっそう大きく弓なりに反れる。 つま先がシーツを引っ張り、皺を伸ばす。 ノアはしなやかな身体をくねらせ、自分を貫く男根をもっと深いところまで誘う。 たくましい肉体美を持つ彼の腰に足を巻きつけた。 イジドアの男根はノアの最奥へと辿り着く。 ノアはその反動で息を詰めた。目の前で火花が飛び散る。 最奥に辿り着いた彼のすることはひとつ。自らの解放だ。慣れていないノアの中で痛がるのも無視して激しい抽挿を繰り返し、欲望のままに吐精する。 しかし、彼は身動きひとつしなかった。彼はノアが落ち着くまで待ち続ける。 そうして彼は何気ない仕草を見せていた。 だからノアは相手が何者であるのかを忘れ、快楽に身を委ねてしまう。 詰めていた息をそっと吐き出せば、自分を貫いている彼が息づくのを感じる。 彼の男根に貫かれた肉壁が同じ形になっている。 そう思うと、内なる炎がふたたび燃えはじめた。 イジドアはノアの中に宿る炎に気がついたのか、華奢な腰を持ち上げた。 浅い抽挿がはじまる。肉壁が擦られ、肌を打ち付けられればそのたびに淫猥な水音と肉塊がぶつかり合う艶めかしい音が生まれる。 浅い抽挿はやがて深くなり、速度を増す……。 ノアはこれ以上ないくらいのオーガズムを感じた。 やがてノアの、二度目の欲望が弾ける。それと同時に男根を咥えている肉壁は収縮し、中にある彼ごと締めつけた。 野獣を思わせるくぐもった低い声が、果てたノアを刺激する。 イジドアを受け入れている肉壁がさらに窄まり、彼を戒める。 その行為で強く締めつけられたイジドアもまた、ノアの後を追うようにして果てた。 イジドアの白濁が、最奥に向けて勢いよく注がれる。 自分は今、同性に抱かれ、悦んでいる。 そう思うと、心は悲しみに乱れる。 ノアの目尻から、快楽と悲哀とが入り交じった涙が流れ、頬を伝う。 目尻にはまた新たな涙が生まれ、こぼれ落ちる。 そして三度目の涙は、けれどすぐに止められた。 ノアの目尻に、骨張った指が触れる。 この指はもう誰のものかは知っている。 ノアがイジドアに抱かれ、涙を流すそのたびに、彼はこうして涙を止める。 イジドアにとって、自分はただの性欲処理にすぎないのではないのか。 しかしこれは、セックスとは何ら関係がない。 彼のこの行動はいったい何を示すのだろう。 まるで自分を慈しむような、優しさとも取れる行動の意味は何だろう。 イジドアの、理解不能なこの行為がノアを苦しめる。 しかし、男に抱かれ、果てたノアはすっかり体力を削ぎ落とされてしまった。彼は憎むべきヴァンパイアの腕に包まれ、意識を手放した。 |