chapter:エンペンくんもとい、アドレーとの初デート ◇ 「篤(あつし)、篤!! あれは何だ? 天竜と同じくらい速いではないか!!」 グレーのシャツにチノパンを穿いた金髪美青年アドレーは青い目を輝かせ、レールの上を恐ろしい速度で滑る乗り物を指差し、篤に問うた。 日曜日の今日はアドレーと遊園地でデートだ。 アドレーの見た目は麗しい青年でも、中身はまるで子供だ。 「ジェットコースター? 乗りたいの?」 「おおっ、じぇっとこーすたーと言うのか、あれに乗れるのか?」 アドレーは頗(すこぶ)る上機嫌だ。 篤が思っていた通りの言葉や仕草がアドレーから返ってきて、とても楽しい。 しかし、アドレーは金髪でしかも美しい青年だ。 行き交う誰しもがアドレーを見つめ、ため息をこぼす。 おかげで篤はアドレーが自分以外の誰かに取られてしまうのではないかと気が気ではない。 人目が気になってしょうがない。 「じゃあ、並ばなきゃね」 篤はその場から逃げるようにアドレーの手を引き、長蛇の列に飛び込む。 この分だととても長時間この場所にいることになるだろう。それでもアドレーと一緒にいられるのなら、どこだって楽しい場所になるのはたしかだ。 「篤」 「うん?」 アドレーに呼ばれ、彼の方へと顔を向ければ――。 「愛しているぞ」 篤の唇を塞いだ。 「っふあっ?」 篤はほんの一瞬の隙を突かれ、しどろもどろになる。 アドレーが自分のものだと思い知れば素直に嬉しい。 だが、それ以上に恥ずかしい。 しかも、ここは外で自分はアドレーと同性だ。 この日本ではまだ同性愛はそこまで受け入れてもらえていないのが現状だ。 篤の顔が、朱色から一気に青ざめていく……。 「アドレー!!」 篤がアドレーを睨んだ瞬間。どうしたことか、アドレーは奇妙な音を出した。そして次の瞬間、立派な王冠を被ったペンギンが現れた。 「あ、ぬいぐるみ〜」 五歳くらいの女の子がこちらを指差し、嬉しそうに飛び跳ねる。 大人たちはみな、不思議そうにこちらを見ている。 どうやらアドレーにかけられた魔法はまだ健在らしい。 篤は空笑いをしてから膨れっ面の可愛らしいぬいぐるみを抱き上げ、長蛇の列を抜ける。 なんとかひと目につかない隅っこのベンチまでやって来ると、篤はエンペンくんを膝の上に置き、座る。 アドレーといると、デートらしいことができない。 しかしそれも楽しいと思えるのはすべて、彼を好きだからだ。 「俺もアドレーがどんな姿をしていても好きだ」 篤はぽつりと告げると、眉間に刻まれていた皺が少しずつ消えていく。エンペンくんはどうやら少し、気分を和らげたらしい。 篤ビジョンからだと、つぶらな瞳がキラキラと輝いて見える。 「かっわいいな〜、エンペンくん!!」 先ほどまで人目を気にしていた篤だが、アドレーが縫いぐるみになると突如としてキス魔に変わる。 篤はでっぷりとした皇帝ペンギンの縫いぐるみと化したアドレーに頬ずりをすると、幾度となく、ふっくらとしたモチモチの唇に自らの唇を押し当てる。 これからもアドレーと一緒にいると落ち着かない日が続くだろう。 だが、それも悪くはない。 篤は緩む頬を抑えられなかった。 |