◆ 薄い唇が弧を描く脊柱(せきちゅう)をなぞり、その先にある尾てい骨へと向けてゆっくり進んでいく……。 骨張った指が赤い果実のような乳首を弄るほどに、そこはツンと尖って強調する。 薄い唇が骨張った指が動くそのたびに綾人の赤い唇から甘い嬌声が弾き出された。 下肢を強調している綾人の一物は蜜を垂れ流し、シーツを濡らす。 明るい照明に照らされる中、綾人は一糸もまとわない柔肌を晒(さら)し、淫らに揺れた。 (夢みたいだ。信じられない) 四年越しの恋が実り、その相手と情を交わしている。しかし彼は女子から絶大な人気を誇っている。男の自分を相手にするわけがない。だからこれはきっと自分の勝手な夢なのだろう。 たとえこれが夢だとしても、それでも綾人は覚めないよう、切に願った。 「好き。凌雅、好き……」 綾人は嬌声の合間に自分を組み敷く彼へ、今まで恐くて言えなかった熱い胸のたけを告白する。 その想いに応えるように、綾人を攻める彼の愛撫はより激しさを増す。 乳首を弄っていた片方の手が綾人の一物を包み、やわやわと扱く。凌雅の手がすっかり蜜で濡れそぼっている綾人の陰茎を揉むようにして触れられると、淫猥な水音が生まれ出る。 「んっ、あっ」 ベッドの上で狂おしく凌雅の名を呼ぶ綾人は与えられる快楽に染まっていく。はしばみ色の目は涙で潤み、頬は紅色に染まる。その姿に魅了された凌雅は、自らの唇で淫らに喘ぎ続ける赤い唇を塞いだ。 「っふ……んぅう……」 凌雅は自らの舌を綾人の口内へと滑り込ませ、彼の舌を絡める。綾人の赤い唇からはどちらのものかわからない唾液が滴り落ちる。 「可愛い。こんな可愛い姿を他の男に見せてたのか? 妬ける」 赤い唇を離し凌雅が告げると、彼の手の中にある綾人の一物に強弱をつけて捏ね繰り回した。 「っん、ああっ! だめっ、イくっ!! やだっ、一緒がいいっ!!」 このままでは達してしまう。 綾人はなんとか欲望を抑え込もうといやいやを繰り返す。その姿もまた、扇情的だ。 「いいよ、イって。綾人がイく姿を見たい」 綾人の耳孔に甘い声が注がれる。――その直後、綾人は身体を反らし、果ててしまった。 できるなら、凌雅と共に上り詰めたかった。残念な気持ちで一杯になる。 綾人は乱れた息を整えるため、大きく呼吸を繰り返していると、綾人の精を受けた骨張った指が一本、後孔に侵入を果たした。 蜜をまとった指が内壁を割り、進んでいく……。 その指がある一点に到達すると、華奢な身体が大きく跳ねる。 彼が触れたそこは前立腺だ。 「っは、あっ!!」 「凝りがあるここがいいの?」 綾人の反応を見た凌雅は、そこばかりを執拗に擦りはじめる。 「やあっ、だめっ、もっ、やあっ……」 ただでさえ、前立腺を刺激されると射精感を伴うのに、先ほど達したばかりの敏感になっている時に触れられれば、綾人の一物はまたすぐに膨れ上がっていく……。 「可愛い、綾人。すごく綺麗だ……」 内壁の中で前立腺を執拗に擦り続けていた骨張った指が消え、綾人の腰が浮いた。 後孔に熱を持つ硬いものが触れた。 「んっ……」 硬いものの正体に気がついた綾人はできるだけ力を抜く。するとすぐにそれは綾人の内壁を掻き分け、最奥を目指して進む。 自分を組み敷く彼は今、どういう表情をしているのだろう。今朝のようにまた軽蔑されたら? 綾人を穢(きたな)いと思っていたら? 綾人は凌雅に無理矢理組み敷かれた当時のことを思い出し、急に恐くなった。 「……あのっ……」 綾人は唇を震わせ、背後にいるだろう彼の方へ振り向けば、薄い唇が綾人の唇を塞いだ。 「んうぅ……」 今朝の行為にこれはなかった。だから凌雅は自分を軽蔑していない。綾人の胸が幸福感で一杯になる。 「凌雅の顔、見たい……これ、いやだ……」 たとえこれが綾人の夢だとしても、好きな人との情交だ。彼をもっと間近に感じたい。 綾人が強請(ねだ)ると、目の前にある薄い唇が孤を描く。 「何それ、ものすごく可愛いんですけど」 凌雅は一度、自分を締めつける魅力的な内壁から楔を抜き取ると綾人を反転させ、ふたたびひと息に穿つ。 「っひ、ああっ!!」 突然の深い接合に、しなやかな裸体は弓なりに反れた。 今、自分の目の前には額に汗を浮かべた凌雅がいる。彼の薄い唇は苦しそうに開閉し、浅い呼吸を繰り返している。それはまるで、達することを自制し、綾人とのこの行為を少しでも長く愉しもうとしているようだった。 「夢、でも……うれしい……」 嬉しくてほろりと涙を流した。 「だから夢じゃないんだけど……もういいや、こうなったら夢じゃないっていうくらい、思いきり抱いてやる……」 凌雅はそう言うと、ベッドに横たわる綾人の身体を持ち上げ、凌雅を咥え込んだまま、対面座位へと変えた。そうなると、内壁に収まっている凌雅の楔がより深く刻み込まれる。 「やっ、やっ、うそっ! 深いっ、ああああっ!!」 綾人の腰を上下に揺すられると、深い接合が待っている。刺激された綾人の一物から勢いよく蜜が飛び散る。 「綾人、キスしよう」 低音の声が綾人の耳元でそっと囁くと、綾人は顔を上げ、薄い唇を見る。 「ん……」 薄い唇が綾人の唇を捉え、貪る。綾人もまた、口角を変えて差し出された舌を自らの舌で交える。 (好き、すごく好き……) 「んっ、っふ……」 繊細な指が、短い漆黒の髪を掬い取り、指に絡める。 「好きだ、綾人今夜は寝かせない」 綾人の気持ちを代弁するようにそう言った凌雅の楔は綾人の内壁の中で今にも弾けそうなくらい、猛っている。 「だめっ、門限がっ! あっ、っふ、ああっ!!」 たとえこれが夢であっても、門限を破るというのは寝覚めがよくない。綾人は昨夜、両親からこっぴどく怒られたばかりだ。だから首を振った。 しかし、それも好きな人に求められれば話は別だ。綾人は両腕を凌雅の首に巻きつけ、縋りつく。密着した身体はより深く接合する。 「後で一緒に謝ろう。幸い明日は土曜で大学も休みなわけだし、このまま俺の別荘に行こうか。実はこの近くにあるんだよ。……いっそのことそこに一緒に住むってのも悪くないと思わない?」 「っふ、ああっ、イくっ! 凌雅の傍にいられるならどこでもいきたい……」 「決まりだ」 あっさりと提案を呑んだ綾人に、にっこりと笑みを浮かべた凌雅は綾人の腰をいっそう高く持ち上げる。綾人の中から凌雅が消えていく……。そうかと思った瞬間、彼は突然何を思ったのか、手を離した。 「そんっ、あっ、ああああっ!」 重力に押されるまま、綾人の後孔は凌雅の楔に貫かれる。 凌雅を飲み込んだ綾人の最奥へと白濁が注ぎ込まれた。 綾人は強い刺激と注ぎ込まれた熱で、これ以上ないくらい身体を大きく弓なりに反らし、二度目の精を吐き出した。 短時間のうちに二度も達した後にやって来るのは疲労による眠気だ。 これは自分が作り出した勝手な夢の中だと自覚している。それでも……と、綾人は自分が目を覚ました時、隣に彼がいることを願った。