◆ 『一緒になろう』 とある一週間前の深夜、体調不良の上に風邪をこじらせた春菊にそう告げられた。 『青が広がる海が見たい』 『もう一度、生まれ故郷の――毎日見ていた懐かしい海が見たい』 熱に浮かされ、意識が散漫になりながら、そう言ったことを覚えている。 『だったら見に行こう、一緒にここから抜け出せばいい』 匡也は目を細め、優しくそう言った。 だが、それはあくまでも自分を励ますためで、まさかこういう状況になるとは思わなかった。だって、匡也は将来有望な医者で、自分はただの娼妓。遊郭に囚われた奴隷のようなものだ。 彼と共に海へ行けるはずもない。 期待をすればするだけ絶望が増えるだけだ。 今まで幸福とは無縁だった自分が、まさか想い人である匡也とこういう状況になるとは到底思えなかった。