◆ その日は日曜日。 木々に生い茂っていた緑の葉は赤へと変わり、やがて吹いてきた木枯らしのイタズラで飛ばされる。 枝ばかりの殺風景な木々が、赤、青、緑などの綺麗なイルミネーションを身に纏(まと)う、待ちに待ったクリスマスイヴ。 オレは隣を歩く雅さんをジッと見つめることはさすがにできないから、ブラインド越しに映る彼を見た。 背が高くてスラッとした体型。 首元を開けたグレーのVネックから覗く鎖骨に、色香を出した肌の上からピーコートを羽織っている広い肩。 足が長いのは見ただけで十分わかるのに、スリムスラックスが余計に引き立てる。 相変わらず、雅さんはカッコいい。 対するオレは、黒のタートルネックにグレーのジャンパージャケット。 ズボンも寒いからという理由で起毛のトレーニングパンツだ。 何も考えず、ただ『寒い』という理由で着込んでしまった服で、もはやコーディネートでもなんでもなくなっている。 せっかく、好きな人と歩くのに、しかも隣にいるのが半端なくカッコいいその人は、まるでモデル並みなのに、オレはこんな格好で、釣り合いも何もとれたものではない。 今更後悔しても仕方がないが、せめてもう少し隣にいる人のことを考慮して着る服を選ぶべきだったなんて思っても、もう遅い。 アンバランスなオレと雅さんに向けて放たれる道行く人々の視線が、チクチク、チクチク、痛い。 気になって周りを見てみると、男女問わず雅さんを見つめてため息をこぼしたり、何か眩しいものを見るようにして目を細めたりしている。 オレだって、ガラス越しじゃなくって雅さんを直接見たいんだよ!! ――なんて、内心毒を吐いていると……。 グイッ。 「へ? わわっ!!」 突然、オレの手首が後ろへ引っ張られ、ぽすんと音を立てて雅さんの胸の中へダイブした。 何事かと視線を上げていくと、そこには涼やかな双眸(そうぼう)が見下ろしていた。 ――え? なに? 交わる視線に、ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打つ。 視線の行き場に困って前を見たその瞬間、勢いよく走る自動車が鼻先をかすめた。 それでようやく信号が赤になっていたことを知ったんだ。 「俺っていう存在が隣にいるのに、サクラくんは何を考えていたのかな?」 雅さんはとても紳士だ。 『信号が赤で危ないから、よそ見をして歩かないで』とか、そういう言い回しをしない。 彼は、オレが上の空だったことを責める。 まるでヤキモチを妬いているように……。 ――ダメ。これは勘違い。 ヤキモチなんて、そんなことはけっしてない。 だって、雅さんには恋人が……好きな人がいるんだから。 今はちょっとしたスレ違いで、オレと一緒に居るだけ。 それだけだから……。 それなのに、こうして腕の中に包まれていると、なんだか恋人になった気分になる。 有り得ないのに……。 「ごめんなさい……」 雅さんの長い腕に包まれていられる、この時間は、皆にとって一瞬のことかもしれない。 でも、オレにとってそれは長い時間のように思えた。 ドクン、ドクン、ドクン。 うるさいオレの心音が、どうか雅さんに聞こえませんようにっ!! そう願って、交わった視線を外して顔を俯(うつむ)ける。 もう人目なんてどうでもいい。 今だけは……なんて、勝手なことを思うオレ。 こうしてオレを包む雅さんが、オレのことをどう思っているのかっていうことしか考えない子供なオレ。 そんな自分に嫌気がさす。 回された腕を振り切る勇気すら持てなくて、ジッとしたままいれば、周囲から喧騒が聞こえてくる。 ボンヤリした空間から一気に我に返った。 信号待ちはもう終わり。 いつまでも、オレの腕を掴んだままの雅さんを振り切って、切ない気持ちを押し隠す。 離れた体は、雅さんの体温が急に消えて、寒い。 凍えそうだ。 それでも大好きなその人に笑顔を向けて走り出す。 「はやく行きましょう? 展覧会すっげぇ楽しみ!!」 ズキズキ、ズキズキ。 痛む胸を隠して……。 どうか、今日だけは……と神様に願いをかけて――。