◆ 「サクラくんは、今年のクリスマスイヴどうするの?」 「えっ?」 今日も学校から家に帰った後、『晩御飯を持ってきた』という名目で雅さんの家に上がり込み、テレビのある部屋でお茶をもらっている時だった。 「この近くで美術館が新しく出来たって言うでしょう? もし、何の予定もなかったら、一緒に展覧会に行かない?」 雅さんからの突然の言葉に耳を疑った。だって怒らせたとは言え、雅さんには彼女さんがいる。 イヴは彼女さんと仲直りをする絶好のチャンスだから、きっと雅さんも彼女さんと過ごすだろうと思っていた。それなのに、雅さんはオレを誘う。 そうしてくれるのはすごく嬉しい。 とても嬉しい。 だけど、彼女さんはどうするの? 「あの……」 『彼女さんは?』 それは訊(き)きたくない言葉。 でも、気になる内容。 天邪鬼なオレの気持ち。 それでも開きかけた口を閉じてしまうオレは、情けないほど臆病者だ。 喉まで上ってきた言葉を飲み込んだ後、「行きたいです!!」と言った現金なオレは、にっこり笑って、強く頷(うなず)いた。 だって大好きな雅さんとふたりきりで展覧会に行ける。しかも、今から三日後のクリスマスイヴ。 雅さんの彼女さんのことなんて忘れてしまおう。 引っ越す前の、とても楽しい思い出にするんだ。 うしろめたい気持ちを振り払って、こっそり決意するオレ。 そんなオレは、絵はかけないけれど、絵画を見るのがすごく好きなんだ。 昔、母さんと父さんに用事が出来た時、行きたかった絵画展に行けなくて駄々をこねていたのを思い出す。 そんな時、雅さんが絵画を見たいというオレの願望を叶えてくれたんだ。 あの時は、雅さんが神様みたいに思えたっけ……。 昔を思い出していると、雅さんもクスリと微笑む。 「そう言えば、サクラくんが小学六年生の時だっけ? 絵画を観に行きたいって言っていた時があったね」 ドキン。 オレが思い出していた光景を雅さんも思い出していた。 それがとても嬉しい。 「はい」 ニヤけてしまいそうになる口を誤魔化すため、今はこれといって必要でもない緑茶が入っている湯呑を口元まで持っていく。 ふぅっと息を吹きかければ、湯気はオレと反対側に向かって進む。 ……あたたかい。 ボンヤリした感じになる。 「あの時、嬉しかったです……。もう行けないって思っていたから……」 「ずっと前から楽しみにしていたものね。サクラくん、絵画展に行くんだって嬉しそうに言っていたっけ?」 ――そんな前のことまで事細かく覚えてくれていたんだ。 なんだか胸の奥がくすぐったい。 オレの体はホワホワと宙に浮いているように軽くなる。 展覧会が待ち遠しいと思う気持ちと、それが終わったら、雅さんと離ればなれになるという気持ち。 そのふたつの気持ちでザワザワするオレをよそに、クリスマスイヴは着々とやって来るんだ。