chapter:人魚姫~深海の底で ――ただ、それだけのことだ。 勘違いしてはいけない。 厄介なのは、俺に芽生えたフランへの感情だ。 俺が彼に向けるもの。 それはまさしく『愛』だということ……。 早くフランの最愛の人魚が現れればいい。 そうすれば、俺のこの不毛な感情は落胆へと代わり、淡い期待も持たなくてすむ。 こればかりは、俺が持ち得る魔力でもどうにもできない。 ――神よ、どうかフランをあきらめさせてくれ……。 俺は最近、そればかりを願っている。 「……ふうん?」 彼女はまだ言い足りないのか、目の奥で光を宿している。 「それよりもいいの? あの子の性格だから、きっと人間の世界を見に行ったわよ? あんなに人間界のことを気にしているんだもの」 「……だろうな」 「貴方も苦労性ね、さっさとあの子に思いの丈を言っちゃえばいいのに」 「消されたいのか?」 「まあ、こわいわっ、消されないうちに退散しましょうっ!!」 俺が横目でひと睨みすると、彼女は言葉とは裏腹に、どこか楽しそうに闇の中へと消えていった。 ……まったく、俺としたことが。 深海で最も恐れられ、ポセイドンの次に強い魔力を持つという俺が、あんな人魚ひとりに振り回されるなんて――。 そう思うのに、振り回されるそれさえも楽しいと思えるのは、フランのせいだ。 俺はコートを羽織り、急ぎ、地上へ向かった。 |