chapter:☆好きっていう気持ち☆ 「……わかった。霧我のも用意して先行ってるね?」 「ああ、ありがとう」 口元はそのままだけど、目を細めてぼくと目を一瞬交わせた。 あ、笑った。 それはちょっとだけだけど、たしかに霧我は笑った。 霧我は大げさに笑ったり怒鳴ったりしない。 ほとんど無表情で過ごす。 だからみんなも無表情で怖いってよく霧我のとこを言っているけど、実は違う。 霧我は、ほんのちょっと顔の筋肉を緩ませたり引きつらせたりしていることは、もう知っている。 これってきっと、好きっていう気持ちが大きくって観察をしてきた成果なのかもしれないね。 みんなが知らない霧我を知って嬉しい。 ぼくだけの霧我を知ることができて、とても嬉しい。 思わず口元がゆるんでしまった。 それがいけなかった。 霧我はぼくが笑うと、すぐに背中を向けて準備室まで運んでいってしまったんだ。 もしかして、ぼくの笑った顔って、ヘンなんだろうか。 それは自分の顔について新事実が発覚してしまった4限目が始まる、直前の出来事だった。 それから放課後の今まで、ぼくは結局、授業でしか霧我と一緒にいられなかった。 霧我はやっぱり先生のお願いを訊(き)いていたんだ。 ――で、ぼくは今何をしているかというと……。 教室の掃除当番を終わらせて、机に突っ伏していたりする。 |